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ピロート・スーパー

ピロート・スーパー (PILOT SUPER) はKWの一眼レフカメラ「ピロート6」の後継機種で,以下のような特徴がある戦前の一眼レフカメラです.

・レンズ交換可能
・小型軽量(Ennatar 75mm F4.5 付きで実測646g)
・マルチフォーマット(マスク装着による66判と645判兼用)
・ミラーシャッター:B, T と 1/20, 1/50, 1/100, 1/200 の4速
・多重露出防止機構付き(手動による解除も可能)

現代の目で見たときのこのカメラの最大の特徴は,その軽さでしょう.646g は多くの66判一眼レフ(1400〜2000g)に比べると圧倒的に軽く,二眼レフでも700gを切るものはプラスティック筐体であったりピント合わせが出来なかったりするものがほとんどです.スプリングカメラでも距離計が付いているものはもっと重いもののほうが多いぐらいです.ピロートはアルミダイキャストボディをメッキや塗装,貼り革を施した鉄の薄板で覆う構造で出来ており,材料で軽くしたというよりは合理的でシンプルな構造により軽量化を達成したという感じを受けます.

シャッターはイハゲーの35mm判一眼レフカメラ「エクサ」によく似たミラーシャッター方式で,先幕の代わりにミラーが,また後幕の代わりにドラム状の薄板がそれぞれ動くことで露出時間をコントロールします.普通の一眼レフとは違い,シャッターセット中(ミラー復元中)も含めて完全に遮光する必要があるため,ミラーの左右などからの漏光を防ぎつつ軽快に作動させる仕組みもエクサによく似ています.ただしこの構造では幕速が速く出来ないため最高速は1/200秒止まり,またスローシャッターのメカを持たないことから最低速も1/20までとなっていますが,手持ち撮影をする上では十分でしょう.幕の劣化などの心配がないのはよい点です.

ただしこのシャッターの構造からマウント径を大きくすることが出来ず,ネジマウントの内径は約30mm(おそらく M31 P0.75 のネジ)と小さいため,望遠レンズを付けるには蹴られが問題になり,また広角レンズを装着するにはレトロフォーカス型のレンズが必要となるので,この時代(1939年ごろ)の技術では交換レンズの設計は困難であったと思われます.そのためか,75〜80mmの標準レンズ域のレンズの他には,105mm の交換レンズしかなかったと言われています.戦前のカメラですので,レンズはノンコートで,おそらく全ての標準レンズがトリプレットの前玉回転式です.私の個体には Enna の Ennatar 75mm F4.5 がついていました.

巻き上げは赤窓式ですが,それゆえフィルム送り量はユーザーが自由に決められますから,マスク交換により簡単に645判としても使えるのも一眼レフカメラとしては特徴的かと思います.私が入手した個体は幸いな事にこのマスクや取扱説明書(英文)が付属しており,フィルムレールの内側にマスクを装着する手順も説明書に記載されていました.

巻き上げとシャッターチャージは連動していませんが,多重露出防止機構が備わっており,シャッターダイヤルを正面から見たときに11時の位置にあるレバーを上に動かすことで解除することも出来ます.シャッターダイヤルの7時の位置にあるノブはT(タイム露出)のためのもので,このノブを上を動かすとシャッターを切ったあと後幕がロックされT露出となりmす.このノブをチョンと下へ押すと解除されます.シャッターボタンはシャッターダイヤルからみたときの4時の位置にある少し大きなノブで,これを下へ下げるとシャッターが切れます.その上のほうに標準的なレリーズケーブルを差し込めるソケットもあります.背面の赤窓は,まだ645専用の数字に対応しておらず,69判の指標を二箇所に順に出す方式になっています.

シャッターダイヤルは回転式で,バルナックライカ等と同様に引っ張って回すことでシャッター速度を変化させます.シャッターダイヤルの側面と上面の二箇所にシャッター速度が記載されており,上から見た場合でも,また側方から見た場合でもシャッター速度を確認できます(上から見た時は巻き上げ後しか確認できませんが,側方から見た場合は,中央のネジに打たれた指標によりいつでもシャッター速度を確認できます).

フィルムは二眼レフと同様に底面のレンズよりに装填し,後方上へ巻き上げられます.このフィルム装填室の配置とミラーシャッターの動きなどの関係が良く出来ているため小型化が達成されていますが,二眼レフのミラーの後ろにある巻き上げ側のフィルム室だけはどうにもならず,後方にはみ出てしまっています.これが少し不格好に見えますが,巻き上げ操作をするには都合が良い感じです.

ファインダは固定式で,ルーペを上げるとほぼ密閉されるため,暗いスクリーンではあるがピント合わせを助けています.スクリーンにはフレネルレンズがなく,ルーペを下げて,少し離れて覗くと全体の構図を確認できますが,ルーペを下げると周辺部分が暗くなってしまいます.他機種のスクリーンを切って装着するか,フレネルレンズを載せると使いやすくなると思いますが,まだトライしていません.スクリーンには上下に645判で撮影するときの目安線がついています.ファインダフードの前の蓋を押し込むと透視ファインダになるのは多くの二眼レフと同様ですが,フィルム室があるため眼が近づけにくく覗きにくいといえます.この透視ファインダの前面には横向きの桟がついているので,やはり645判での撮影の目安になります.

私が入手した個体は多重露出防止機構が故障しており,レンズが曇っていたりファインダフードが歪んでいたりとあちこち手を入れる場所が多くありました.レンズマウントにレンズが固着していて外れなかったり,多重露出防止機構は内部でピンが外れていたりしましたが一通り手を入れ,撮影ができるようになったようです.試写結果は追ってウェブサイトに掲載したいと思います.一眼レフですので何らかのレンズが取り付けられれば撮影は可能ですので,引き伸ばしレンズを適宜交換して使ってみると面白いかと思い,L39への変換アダプターの制作を予定しています.

日浦 2015/12/26(Sat) 16:54 No.114 [返信]
Re: ピロート・スーパー
ご無沙汰しております。
ゆうれいです、ちゃんと生きてました。

手元にビロートスパーがやって来ました。
このカメラの血の繋がらない子孫である長城を愛用しておりますので
ご先祖様には興味がありました。

かなり外観はやれておりますが、一応ちゃんと動いている様です。
レンズもバッチリ曇っておりましたが前後の玉を外してクリーニングすると
思いのほか綺麗になりまして、それなりに写りが期待できそう?

操作系も長城とほぼ同じな事からとっつき易そうです。
近々に試写をする予定ですが、どんな写りをするのでしょうか

ちなみに長城は魔改造をしていますので、パッと見正体不明なカメラになっております。 

ゆうれい 2016/08/16(Tue) 19:48 No.332
Re: ピロート・スーパー
ゆうれい様,ご無沙汰しております!どうぞよろしくお願いいたします.

しかし,これは・・・魔改造しすぎです・・・笑 最初「ブロニカETR,なるほど,横位置645判か」などと勝手な誤解をしておりました..

ピロート・長城は,最軽量中判一眼レフの1つとして,いろいろ使いまわしたい気持ちがおきますね.純正レンズがノンコートばかりということもあって,どうしてもいろんなレンズを付けたくなります.しかしレンズマウントの直径が小さく,蹴られを考えるとフランジバックにも制約があり難しいです.いろいろ試して,引き伸ばしレンズで撮れるように,とかやってみたのですが,結局のところこんなふうにボディ改造するのが一番の近道なのでしょうね.
日浦 2016/08/17(Wed) 01:06 No.333
Re: ピロート・スーパー
ゆうれい様お元気そうで嬉しいです。
私も吃驚しました。最初にマガジンを外したETRにタクマー75?と見間違え、読んでもっと吃驚。

ミラーシャッターなのでフォーカル機用レンズがいけるのはわかりますが、凡人が開口部で尻込みする所を突破。
多分スクリーンも見やすいものに交換しておられるでしょうね。
巻き上げノブ交換、重心位置に合わせアイレット移動。
どれも合目的で使いやすそうな改造です。

軽量645でレンズ自由度が高いので、一見奇矯ですが実用的なのでしょうね。
れんずまにあ 2016/08/21(Sun) 10:47 No.336
Re: ピロート・スーパー
日浦様 れんずまにあ様

ピロートスパー撮影をしたのですが、盛大に漏光でかぶってしまいました。
裏蓋のテレンプもカチカチに経たっておりましたので、予想はしておりました。

本業が忙しくまだ弄っておりません。
PCも調子が悪く、先日入替をしましたが、まだ立ち上がっておらず画像のスキャンもままなりません。

ちなみにピロートの隣の変なカメラは長城(GREAT WALL)ですので、ピロートの改造機では御座いません。
今度、オリジナルの長城が手元にやって来る事と成りましたので
何時かレポート致します。
些か脱線しましたので、長城についてはまた改めて。

ゆうれい 2016/09/12(Mon) 23:38 No.360
Kodak 2-D (5x7) Wollensak Raptar f6.3/302mm

しばらく前に入手した57を最近ようやく使い始めました。

Kodak 2-D 5x7
Wollensak Raptar f6.3/302mm

今のところ4枚試写をして、自分では悦に入っております。
知人を撮したりと、個人情報に触れないものを今後、ご紹介したいと思います。

三脚を設置、カメラ組み立てと手持ちのスピグラからみると撮影スタイルが全く変わります。これまであまり三脚を据えてというプロトコルを撮影スタイルで持っていなかったので、新たなる挑戦です。
今度の週末には、外に出てみようと思っております。ウフフ。

CLPO 2016/06/14(Tue) 04:07 No.280 [返信]
Re: Kodak 2-D (5x7) Wollensak Raptar f6.3/302mm
ゴーナナは国内ではほぼ絶滅しているのですが、プロポーションは4x5や8x10よりも好きで、フィルム確保できれば活用したい所です。

とても頑丈そうで、しかも軽そうなコダック暗箱ですね。

このラプターはテッサー型?焦点距離少し長めでポートレートに使われていたのでしょうか。大型シャッターでカメラの存在感に負けていません。

大判愛好家に対して海外では暖かいような気がします。撮影が楽しく、結果も最高に素晴らしい。
レポート楽しみにしています。
れんずまにあ 2016/06/16(Thu) 17:04 No.284
Re: Kodak 2-D (5x7) Wollensak Raptar f6.3/302mm
れんずまにあ様
コメントありがとうございます。

ゴーナナ、国内では絶滅種なのですか?知りませんでした。
この個体ですがRochesterの方から譲って頂きました。その方の知人が長く使われていたものだそうです、実際に写真を取るのであれば譲るという条件でした。
専用のケースもついております。三脚も純正のものなのですが、ちょっと頼りないので別のもので使おうと思っています。

このラプター。。。こっそりレンズマニア様からの評価コメントを期待しておりました。笑。 
今度、懐中電灯をあてて反射面の数を数えてみます。テッサー型なのかなぁ。


私の場所ですとクラカメショーに行くと、まだ沢山フィルム愛好家がいます。日本はどうですか?驚くことに女性の写真愛好家が多いこと多いこと。
日本だと男性が圧倒的だと思うのですが、この辺も写真愛好家人口に影響与えているように思えます。
CLPO 2016/06/17(Fri) 08:37 No.285
Welta Weltur Xenar 2.8/75

お気に入りの66カメラを紹介します

Welta Weltur
レンズはXenar f2.8 75mm ノンコートです
コンパーは最速250まで

巻き上げは底のノブで赤窓式です
面白いのはピン合わせ方
丁度スピグラとかテヒニカのようです。
最短1.25mまでインデックスがありますが、機構的には1mまで行きます。
レンジファインダーですが内部反射が多くパララック調整もないです 。
お世辞にもみやすくはないです 。

特筆すべきはその収納時のサイズかと 。
Sバルダックスと比べてみたいとずうっと思ってます。
右手でフォーカシングし、シャッターは左手親指で押す 。この操作方法でいい感じの撮影テンポになってます 。

CLPO 2016/06/05(Sun) 23:53 No.264 [返信]
Re: Welta Weltur Xenar 2.8/75
ポーランドの美人カメラカスタマーのドラ・グッドマンをご存知でしょうか?彼女がカスタムしたゴールド・ウェルターはとても格好良いんです。これご本人とそのカスタム・ウエルターです。
http://doragoodman.tumblr.com/post/144850406410/
通りすがり 2016/06/08(Wed) 21:24 No.271
Re: Welta Weltur Xenar 2.8/75
通りすがり様
リンク拝見させて頂きました。
格好いいですねええ。組木細工みたいですね。
写真もしっとりした綺麗な作品ですね。
カラーは憧れるんですけど、チャレンジしたことがありません。汗
CLPO 2016/06/09(Thu) 02:03 No.272
Re: Welta Weltur Xenar 2.8/75
私の作品を掲載させて頂きます。
かなり暗い中で、ファインダーが…かつメガネっ子のハンディあり、でしたので男性の横の壁にピント合わせました。大体合うかと思ったのですが肝心の人物にピンが外れました。

Delta400です。現像の条件は、ノートみないと。。。笑

CLPO 2016/06/09(Thu) 14:39 No.273
コダック シグネット80

Kodak Signet 80 camera
1958-62年米国コダック製レンジファインダー35mmフィルムカメラ
ビハインドリーフシャッターによりレンズ交換可能

コダックシグネット系の最終機・最高級機
外装は大部分がベークライト、一部アルミ
レバー巻き上げ、クランク巻き戻し。
セレン単独露出計つき、エクスポージャーバリュー表示
倍数系列シャッター速度1/250-1/4,B
レンズ交換は巻き上げとは無関係に可能。独自のスピゴットマウント。
採光式ブライトフレーム等倍ファインダー。距離計は虚像式。基線長27mm
重量:740g(標準50mmつき)、600g(ボディ単体)

フィルム装填はイージーローディング。単純で確実。レバーはカメラ右手肩部分、二回操作。
巻き戻しクランクは底面ですがパトローネは右手側なのでM5と違って従来型パトローネで良いわけです。
カウンターは自動リセットで、操作に手間取ることは少ないでしょう。
レンズ交換だけは方法を知らないと壊しかねませんが。

なんでベークライトの塊なのにこんなに重いのでしょう。
とはいえ、遙かに小さいPaxette Superもレンズつき700gもありますから、サイズにしては軽いのかも。
さらにこの画像にある革ケースつきだと、1000gに跳ね上がります。
立派とはいえケースが300g近いなんて、量ってみて吃驚しました。

れんずまにあ 2016/04/21(Thu) 23:49 No.207 [返信]
交換レンズ
交換レンズはすべて米国コダック製。ブランド銘はエクターに次ぐランクと言われるエクタナー
広角/望遠は、私の固体はEktanar銘なし(Kodak Wideangle/ Kodak Telephoto)、全てLマークつき(ルーメナイズドコーティング)
標準Ektanar50mmf2.8(テッサー型) 140g ボディ装着
広角Wideangle 35mmf3.5      140g 右側
望遠Telephoto 90mmf4       200g 左側
ブライトフレームファインダー     60g 中央

インチ表示でないところが、当時のデファクトスタンダードであるライカ、またはライバルと目されるレチナIIIsを強く意識した印象を受けます。
銘板は刻印ではなくプリントであり、全く高級感はありません。これが最後のロチェスター製35mm交換レンズになるでしょうか。
eBay見ると、ソニーEマウントアダプターがあるようですね。

3本とも最短撮影距離は2.5ftとRF機としては短い方で、特に90mmはかなりクローズアップ可能です。
では距離計精度はどうかといえば、調整不足なのかもしれませんがこの個体では最短で3本ともかなり前ピンであり、近接では絞り込むほうが安心です。この辺はライカやコンタックス、プロミネントなら1cmもずれないものですが。

レンズ交換は、まずレンズヘリコイドを無限遠にセット。右手側のプラスチックレバーの中心部ロックを解除しながらレバーを外側へ引くと外れます。これはやり方を知っていないと無理ですし、レンズを押さえておかないとぽろっと外れるのでレンズを上にして外す注意が必要です。正直怖い思いをしました。

レンズには絞り指標の反対側にシャッター速度指標があり、上下変換可能ですがシャッター指標側を上にするのがデフォルトのようです。シャッター指標に爪を合わせて露出計に出たEVを窓に出せば適正絞りになる操作方法は、かなり頭を整理した上で慣れる必要があります。

れんずまにあ 2016/04/21(Thu) 23:50 No.208
Re: コダック シグネット80
同時代のレンズ交換RFカメラは、35,50と85-100mmのブライトフレームを内蔵していることが流行していたと思いますが、(プロミネントII, キヤノンVI,スーパーパクセッテなど)
シグネット80は立派な等倍ファインダーには50mmフレームしかありません。
パララックスは補正マークのみです。
交換レンズには採光式ブライトフレーム外付けファインダーで対応しますが、これも補正マークです。
外ファインダーには35,50,90フレーム入りで、珍しいことに5フィートと3フィートの二つの補正マークがついています。

90mmはシャープです。コダックテレフォト90mmf4,f8,1/125、フジ業務用100ネガ

れんずまにあ 2016/04/22(Fri) 00:02 No.209
Re: コダック シグネット80
50mmと90mmはCamerapediaによるとトリウムグラスが使われているとか。50はテッサー型としてそれほど飛び抜けて良いという印象はありませんが、絞れば信頼できます。

Ektanar50/2.8, 1/125, f8, フジ業務用100

れんずまにあ 2016/04/22(Fri) 00:05 No.210
コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き

コダックが1900年代初頭に販売していたロールフィルム用フォールディングカメラで,途中から一部のモデルに世界で初めて距離計が備えられたことで知られるカメラです.最初の距離計搭載モデルが出現したのが1916年2月と言われているので,今月でちょうど100周年になります.

距離計が搭載されたモデルには No.1A, 2C, 3A などがありますが,それぞれ 116, 130, 122フィルムを使用するモデルであり,普通の中判フィルム(120)を用いるモデルである No.1 には残念ながら距離計搭載モデルは存在しません.120フィルムが使える距離計搭載カメラは 1930 年の Agfa Standard の距離計付きモデルまで14年間,待たねばならないと思われます.

最初に距離計が備えられたのが最も大きな No.3A で,画面サイズは約140 x 82mmです.ロールフィルムの幅は94mm程度あり,スプールもそれに応じて長く太いものになっていますが,キー穴部分の形状は120とほぼ同じです.カメラ全体の大きさは 24x12x5cm とかなり大きなものですが,本体側が木製である他,裏蓋などアルミが上手に使われていて,剛性感がある割にかなり軽量に感じられるカメラです.厚手の貼り革やメッキなどの品質や工作,仕上げのレベルは非常に高く,高級カメラであることが伝わってきます.

様々なレンズ,シャッターが搭載された個体がありますが,写真のモデルは Kodamatic シャッターに Kodak Anastigmat 170mm F6.3 が備えられたモデルです.Kodamatic は 2, 5, 10, 25, 50, 100, 150, T, B のシャッター速度が選べ,特に T はシャッターレバーを押してシャッター開,もう一度押して閉,という動作をするので使いやすいと思います.シャッター速度選択レバーやチャージレバーの動きも軽く,軽快に動作し感心するシャッターです.レンズは見たところ,それぞれ2群2枚の前群と後群が対称となった4群4枚で,double anastigmat (doppel anastigmat) に属するレンズのようです.

距離計は特殊な形態をしており,レンズボードの基部(鳥居の根元)に横向きに備わっています.これを横から覗くと,3列になった像のうち中央の像が動いて距離合わせが出来ます.後に述べますが,この距離計は鳥居と一体になって前後するだけで他に可動部がなく,大変合理的な面白い構造となっています.ただし適当な距離から正確に覗かないとならないため,あまり使いやすいものではありません.しかしやはり,最初から単なる単独距離計でなく連動距離計となっている点は評価すべきポイントかと思われます.

距離計連動カメラが本格的にもてはやされるようになるのは1932年のライカDII,コンタックスが出てからで,それまでには前述のアグファとこのコダックぐらいしか例がありません.特にこのコダックからアグファまで14年もの長きにわたりブランクが空くのは不思議な感じがします.しかし,乾板やシートフィルムを用いるカメラではピントグラスを用いてピント合わせが出来るところ,ロールフィルム専用カメラではそれが難しくなったわけですから,ロールフィルムの盟主たるイーストマン・コダックが初めてカメラに距離計を搭載したのは自然なことなのかもしれません.

日浦 2016/02/09(Tue) 01:11 No.147 [返信]
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
距離計の構造を図示します.距離計には前後方向に動くレンズ(クサビ状に見えますが,実際には凸レンズ)が取り付けられており,前向きにバネでテンションがかかっています.レンズボードをレールにそって無限遠位置まで引き出すと,このレンズはベースボードに備えられた突起に接触し位置決めされます.

ベースボードの脇に備えられたラック&ピニオンによりレンズボードが前後されると,距離計全体も前後に動きますが,ベースボードの突起に接触したクサビ状レンズだけは動かずに残ります.それにより光路が屈折され距離計の像が動きます.

イコンタのようなドレイカイルプリズム式の距離計もメカ的連動が少ない面白い構造ですが,内部的には2つのプリズムを互いに逆転させるギアが必要でかなり部品点数の多いものです.また1930年のアグファ・スタンダードでは,レンズボードから距離計へチェーンを張って移動を伝えています.それに対してこのコダックでは最小限の可動部品で距離系連動を達成しており,かつ狂いにくく,調整も容易で面白いものだと思います.

この方式は英国特許 No.13,421 に登録されており,1914年6月2日出願,1915年4月22日登録となっています.
http://www.directorypatent.com/GB/191413421-a.html

日浦 2016/02/09(Tue) 01:27 No.148
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
「オートグラフィック」という名称はこの頃のコダックのカメラの多くに付されています.これは,撮影しながら写真に手書きのメモを残せる機能のことで,専用のオートグラフィックフィルムを用いるものです.

オートグラフィックフィルムは,光を通す裏紙と,遮光性のあるカーボン紙,フィルムの3層構造になっており,裏紙側から鉄筆で文字を書くとカーボン紙のカーボンが裏紙に転写されカーボン紙の遮光性が文字の部分だけ低下します.これにより光を通す裏紙側から露光され文字が映り込むという仕組みだということで,文字を書いた後,天候に合わせて適当な時間(10秒程度まで)露光することになっていました.仕組みの詳細は以下に述べられています.
http://d.hatena.ne.jp/ilovephoto/20100919/1284851579

また具体的な写し込み例などは以下のサイトなどで見ることが出来ます.
http://photo-sleuth.blogspot.jp/2013/03/sepia-saturday-169-keeping-kodak-story.html

オートグラフィックフィルムは今では入手できませんが,現在のフィルムでも強い圧力を受けると現像時に黒化するので,書き込みができるかどうか試してみたいと思います.それより現在的な視点でこの機能に価値が有るのは,他の種類のフィルムを装填できるようにアダプター等を制作した場合です.このときはカメラ背面の赤窓にフィルム番号が出ませんが,オートグラフィック用の蓋は幅が広いため,フィルムの裏紙の文字を読み取るのに好都合なのです.

なお autographic と言ってもなにか自動であるわけではありません.autographic は「自筆の」という意味で,auto には漢字で言う「自ら」の意味に対応します.autobiography (自叙伝),autocorrelation (自己相関),autoallergy (自家アレルギー)などでも同様です.

日浦 2016/02/09(Tue) 01:40 No.149
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
カメラのサイズですが,先に書いたように24x12x5cmと大きめです.パソコンのキーボードで言うと,A からリターンキーぐらいまであります.

スプールも大きく,長さが95.4mm, ツバの直径が 31.8mm ぐらいあります(120フィルムはそれぞれ 65.7mm, 25.1mmぐらい).ただし軸の太さやキーの穴の形状は 120 とほぼ同じです.

日浦 2016/02/09(Tue) 01:56 No.150
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
日浦様

何という偶然、こちらカメラを地元の中古修理店で見かけました。
店主から強く勧められたのですが、120フィルムでの使用が無理そうだと断念。
日浦様の口ぶりですと120での使用が可能と解釈致しました。
可能なのでしょうか?

どんな写りをするのかも興味津々です。
続報を楽しみにしております。
CLPO 2016/02/10(Wed) 00:33 No.151
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
このカメラを強く勧めるとは結構なカメラ屋さんですね ^^

122フィルムはもちろんもうありませんが,120フィルムのツバの左右に,15mmほど延長するアダプターのようなものをかませるとフィルムの装填ができます.さらに,画面にフィルムを支えるレールをつけると良いかと思います.(元の画面は幅が8cmあまりあるため,63mm幅の 120 フィルムは宙ぶらりんになってしまいますので)

3Dプリンタで図面を引いてみましたが,大きいため,業者に発注すると7000円ぐらいかかりそうなのが難点です・・スプールのアダプターはともかく,レールはアクリル板や金属板で適当なものを制作するのがいいかもしれません.

また近々レポートいたします.
日浦 2016/02/10(Wed) 00:59 No.152
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
日浦様
なんと120が使えそうなんですね。
これはレポート心待ちであります。

(そのカメラ屋さんですが、スピグラの修理が得意なクラカメ専門の小さいお店なんです。)
CLPO 2016/02/12(Fri) 20:45 No.153
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
しばらく潜伏しておりましたが,ご想像のとおり(?)このカメラで撮影ができるようにしていました.120フィルムを装填するためのアダプタ製作のほか,現在のフィルムへの書き込みを試したりもしています.

なんといってもレンズの性能が思いのほか良く,望遠レンズでのピント調整でも「え?こんなにシャープなの?」と驚かされましたが,実写の結果も上々でした.

問題は,(スキャニングはできるけれども)引き伸ばし機が6x9までしか対応しないことです...

http://nikomat.org/priv/camera/autographic/index.html
に載せましたので,是非ご覧下さい.
日浦 2016/02/13(Sat) 22:32 No.156
Re: コダック オートグラフィック・スペシャル 距離計付き
距離計の仕組みに感心しました。
世界はドイツ一辺倒ではなく様々な優れたアイディアが各国で生まれていたのですね。
その大きな一極であったアメリカがしばらく民生カメラから遠ざかっていたのは残念ですが、最近ではフォベオン素子とかライトロなど日本以外の独創的な発想がこの世界を楽しくしています。

616を使うスーパーイコンタDを120仕様にして6x11.5パノラマにと画策中ながら、まだ手を付けていません。
参考にさせていただきますね(^_-)
れんずまにあ 2016/02/14(Sun) 08:31 No.157
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