200g級メカニカルカメラ


左から、BelOMO Elikon 535, Hanimex 35 Micro Flash

高機能・高性能なカメラは往々にして大きく重い。しかし、そのような大きなカメラも、シャッターが開いてフィルムが露光される間は無力な存在である。なぜならフィルムの巻き上げやシャッターチャージはもちろん、構図決定やピント合わせ、露出の決定などもシャッターを切る前に完了しなければならず、露光中のカメラは単なる暗箱に過ぎないからである。つまりカメラの機能の多くは撮影の瞬間までの準備を自動化・容易化するものであり、経験を積んだり手間を掛けたりするならば、それらは不要であると言える。レンズを通った光がフィルムを露光している間は光化学反応が生じているだけであり、電気も関与しない。・・とすると、ミニマル、ミニマムなカメラとはどのようなものだろうか。

ここでは 200g クラスの軽さでありながらきちんとピントや露出を調整できる、電池が不要なメカニカルカメラをミニマルなカメラと定義し、それを探求していく。

ミニマルなカメラに求められる条件

ミニマルなカメラとは何か。まずは、様々なカメラを眺めながら、その定義について考えていく。


フォクトレンダー ペルケオ I

中判でミニマルな、小さなカメラというと、その筆頭にペルケオが挙げられる。ペルケオには露出計も距離計も備わらないが、ちゃんとピント合わせ(フォーカシング)とシャッター速度、絞りの調整ができる「完備」なカメラである。完備なカメラであれば、熟練した使い手なら目測と経験による露出で、より高機能なカメラと遜色ない写真撮影が可能だ。しかし、そうはいっても中判カメラは35mmカメラに比べて大きく重い。では、これに相当する35mmカメラはどれか?


コダック レチナ Ia

距離計連動型でも一眼レフでもない、小さな35mmカメラとしてはヴィトーIIやレチナIなどが思いつく。しかし、これらはミニマルであっても、ミニマムとは言いがたい。なぜなら、後のプラスチック製のカメラのほうがずっと軽くて小さいからだ。

では、プラスチック製の小型軽量なカメラで、ヴィトーやレチナのようなカメラがあるかというと、これがなかなかない。カメラのプラスチック化が進んだ1980年頃は、同時に自動露出やオートフォーカス、自動巻き上げやストロボが搭載され始めた時期であり、今度は逆に小さく軽くはなったが、ミニマルなカメラがほとんどなくなってしまったのだ。


左:オリンパスXA, 右:オリンパスXA2

これらオリンパスXAシリーズは小型軽量化が突き詰められたカメラだが、全て自動露出のカメラである。自動であることそのものはよいとしても、製造から40年以上を経た今、ほとんどのカメラが測光素子(CdS)の寿命を迎えており、正常な露出を得ることが難しく、また修理も困難になっているのだ。メカニカルカメラにこだわるのはまさにこの点であり、確かに露出計やシャッターを動かすためだけであれば、小さなボタン電池で長時間の駆動が可能であり、大きさや重さへのインパクトは無視できる。しかし、もっと古いメカニカルカメラが快調に動作し、また修理や整備が可能である中、電子回路の寿命や修理容易性は、新しいフィルムカメラがほとんど発売されなくなった今、決して軽視できない問題となっている。

もちろんプラスチック化が進んだ時代にも、メカニカルカメラは存在する。しかしそれらの多くは、レンズ付きフィルムに近い仕様、すなわちフォーカス(ピント)や絞り・シャッター速度(露出)が固定のカメラである。またほとんどのカメラにストロボが内蔵されるようになり、これに目を瞑っても、フォーカスと露出の両方を調整できるカメラは僅かな種類しかない。

理想を言えば、シャッター速度と絞りは個別に設定ができ、被写界深度のコントロールが出来ることが望ましい。しかし35mm判に準広角〜広角レンズを装着したこれらのカメラは被写界深度が深いことや、近接撮影ができないこと、さらにシャッター速度の可変範囲が狭いために絞りを露光量の調整に使用せざるを得ず、現実的にはあまり大きな違いを生じない。むしろ優先されるのは、日中屋外で過不足なく適正露出を与えることが出来るだけの露出制御範囲を持つことだと言える。

以上をまとめると、ミニマムカメラの条件は以下のようなものになるだろう。

これを言い換えると、レンズ付きフィルムに近いカメラだが、フォーカスと露出の双方が手動で調整可能なカメラということが出来る。

ミニマムカメラを探す

先に結論から書くと、先の条件を満たすカメラは世界中から探しても数えるほどしか存在しない。まず国産機では基本的にほぼ全てがストロボ搭載機となり、シャッター速度は1/125秒前後の単速シャッター搭載機となる。海外製では、シンガポールで製造されたローライ35の廉価モデルに該当するものがありそうだ。そして、東側(ロシアやベラルーシなど)にも数機種、該当するものがある。

金属製カメラ

1970年頃まで、ほとんどのカメラは金属製であった。金属は頑丈で高級感があるが、比重が高いという欠点も持つ。そのため、小さなカメラでも軽量化には限界があった。例えば、フルサイズカメラの大幅な小型化に成功して一斉を風靡したローライ35は370gあり、同様にほとんどの35mm判フルサイズカメラは、金属製である限り、かなり軽いものでも300g台が限界であった。


ローライ35S

表1 金属製コンパクトカメラ(比較的軽量なもの)
機種重さ高さ奥行き露出ピント合わせその他
ミノルタ HI-MATIC F350g113mm73mm54mmプログラムAE距離計連動
フォクトレンダー VF135
ローライ XF35
354g112mm71mmプログラムAE距離計連動
フジカ GER355g110mm70mm53mmプログラムAE距離計連動
コニカ C35360g112mm69mm50mmプログラムAE距離計連動
ローライ 35370g99mm68mm40mm露出計連動マニュアル目測沈胴、露出計以外電池不要
ペトリ カラー35397g102mm65mm44mm露出計連動マニュアル目測沈胴、露出計以外電池不要
オリンパス 35RC410g109mm70mm51mmシャッター速度優先AE
マニュアル
距離計連動マニュアル時電池不要
リコー 500G420g110mm70mm55mmシャッター速度優先AE
露出計連動マニュアル
距離計連動マニュアル時電池不要
※これらは軽量化のため、樹脂部品への置き換え・採用が始まっているものも多い

プラスチックによる軽量化

1970年ごろから次第にカメラの外装やフレームに樹脂が使用されるようになり、200g前後のカメラが多く出現する。例えばローライは金属部品を樹脂に置き換えたローライB35を1969年に発売する。シャッターや露出計など簡略化された部分もいろいろあり、重量は初期のドイツ製で約270g、さらにシンガポール製では230g台まで軽くなった。このように、樹脂化はカメラ軽量化の最大の武器となった。なお、このシンガポール製のローライB35がおそらく、250g以下でシャッター速度と絞りをともに自由に設定できる西側唯一のカメラであると思われる。


セイコーシャMXLシャッターの内部

さて、カメラの小型軽量化を制限しているもう1つの理由がシャッターである。金属製の円筒にシャッター・絞りの羽根と、駆動のためのバネやカム、ガバナー(脱進機)などを組み込んだ、汎用のメカニカルシャッター(コンパーなど)の使用が、ボディの薄型化や小型軽量化を制約した。そこでローライ35は制御メカとシャッター羽根を離して配置することで小型化と沈胴を実現したが、やはりそれらのメカが大きなスペースを占拠することは避けられなかった。ところがその後普及した電子制御シャッターでは、ガバナーの代わりに電子回路と電磁石等によりシャッタータイミングを制御するため、小型化が可能になるだけでなく配置の自由度も向上し、小さなレンズが沈胴することで薄型化を図ったカメラも多く登場した。

表2 樹脂製のコンパクトカメラ
機種重さ高さ奥行き露出ピント合わせその他
バルダ CE35148g103mm64mm32mmプログラムAE目測沈胴、要電池
ミノックス 35GT-X180g100mm62mm32mm絞り優先AE目測沈胴、要電池
オリンパス XA1190g102mm65mm40mmプログラムAE固定電池不要
オリンパス XA2207g102mm65mm40mmプログラムAE目測要電池
チノン ベラミ220g105mm63mm33mmプログラムAE目測沈胴、要電池
マミヤ U220g115mm66mm45mmプログラムAE目測ストロボ内蔵、要電池
コシナ CX-2225g103mm63mm42mmプログラムAE目測要電池
オリンパス XA225g102mm65mm40mm絞り優先AE距離計連動要電池
ローライ B35, 35B235g99mm68mm40mm露出計連動マニュアル目測沈胴、電池不要
アグファ Optima 1535 Sensor260g104mm69mm56mmプログラムAE距離計連動要電池
コンタックス T270g98mm67mm33mm絞り優先AE距離計連動沈胴、要電池

このように、この時代のカメラは大きさ・重さの点でミニマルカメラの条件を満たすようになったが、かわりに電池がなければ動作せず、また特に、受光素子に用いられているCdS(硫化カドミウム)セルが現在では劣化している場合が多いという問題がある。例外はマミヤUとコンタックスTで、シリコンフォトダイオードを用いている。またオリンパスXA1は露出計がセレン式となっており電池不要であるが、フォーカス固定となってしまった。

オートフォーカスカメラ

日本を含む西側社会ではカメラ筐体の樹脂化と時を同じくして、「ピッカリコニカ」に端を発するストロボ内蔵が急激に進展する。続いて「ジャスピンコニカ」に続くオートフォーカス化も進み、樹脂製・オートフォーカス・自動露出・自動巻き上げ・ストロボ内蔵のカメラが入門向けカメラを席巻する。これらのAFコンパクトカメラはズームレンズの搭載などさらなる高機能化の一方で、単焦点レンズを装着した小型軽量なタイプも「世界最小・最軽量」の称号を奪い合う形で数多く登場する。


ニコンミニ AF600QD

表3 小型・軽量のオートフォーカスコンパクトカメラ(全て要電池
機種重さ高さ奥行きレンズ
オリンパス μ-II135g108mm59mm35mm35mm F2.8
フジ ティアラ153g100mm60mm32mm28mm F3.5
ペンタックス エスピオミニ155g107mm58mm35mm32mm F3.5
ニコン ミニ AF600QD155g108mm62mm32mm28mm F3.5
コニカ ビッグミニ BM-301175g115mm63mm41mm35mm F3.5
ライカ ミニ175g118mm65mm41mm35mm F3.5

電池を要することにこだわらなければ、このタイプがもっとも軽量で薄型である。ここでのミニマルカメラの定義からは外れるが、気軽に持ち歩けて速写性も高いうえ、CdS露出計時代のカメラに比べて動作が安定しているものも多く、いまもって価値の高いカメラと言える。

フラッシュ内蔵の入門向けカメラ

自動化が進められる一方、中高生や途上国向け、ゴルフコンペ等の商品用に、より簡易なタイプのカメラも多く出現した。しかし残念ながら、これらのカメラはほとんど、単速シャッターにF8前後の暗いレンズを組み合わせ、ストロボを内蔵することで室内撮影に対応するという、レンズ付きフィルムとほぼ同仕様となっており、多くがフォーカス固定・絞り固定となってしまった。そのなかで、ピント合わせができる、または露出が可変であるカメラには以下のようなものがあり、一部を除き全て1/90〜1/125秒の単速シャッターを搭載する。

表4 電池がなくてもシャッターが切れる、絞りまたはフォーカスが可変の国産樹脂製カメラ
機種重さ高さ奥行きフォーカス絞りその他
ペンタックス PINO J
Goko UF-10
152g118mm70mm48mm3段階ISO・ストロボ・マクロ連動距離と絞りが強制連関
ペトリ CF-35160g110mm68mm37mm固定天気マーク連動シャッター1/125, 1/250
手動切替、沈胴
フジ PicPal 2175g124mm70mm48mm目測(アイコン)ISO・ストロボ連動
ヤシカ Partner180g118mm68mm42mm固定天気マーク連動沈胴
Hanimex 35 Micro Flash190g102mm71mm42mm目測(アイコン)天気マーク連動シャッター1/60, 1/180
ISO連動、F2.8
チノン 35F-II210g114mm67mm46mm固定ISO・ストロボ連動
マミヤ EF2215g121mm73mm53mm目測(メートル)天気マーク連動
コニカ Manbow230g128mm74mm49mm固定ISO・ストロボ連動生活防水
SEDIC electronic 35EF
RAYNOX SF135
290g119mm72mm53mm目測(メートル)直接指定F2.8, 露出計搭載
他に フジ Flash FUJICA S, コニカ EFJ, EFP3, EFP30, Tomato, チノン 35F, コシナ CX-5F, SEDIC City Boy などもある。

ただしこれらのうち一部は絞りを直接操作することができず、フィルム感度設定やストロボのON/OFFにより間接的に行う。これらは設定とF値の対応関係が複雑であり、使いこなしが難しい。また PINO J/UF-10 はストロボ使用を前提にフォーカシングと絞りが連動しており、これらを独立に設定することができない。それに対して天気マークで絞りを設定するタイプのカメラは、絞りの開閉を直接、ダイヤルで設定できるようになっており使い勝手が良い。

これらのカメラは、全てにストロボが内蔵されている。不要なら電池を抜けばよいが、ストロボの発光部や電池ボックスの分だけカメラが大きくなるという問題がある(ただし Hanimex 35 Micro Flash は例外的に、大きさへのインパクトが非常に小さい)。これらのカメラではストロボを搭載する代わりにスローシャッターが搭載されておらず、レンズの開放F値もF4程度のものが多いため、日中屋外(快晴〜曇天)での撮影には過不足ないが、夜間や屋内ではストロボを用いた撮影が前提となっている。

多数のメーカが作っているように見えるが、Goko や SEDIC による OEM と思われるモデルも多い。Hanimex はオーストラリアのブランドであるが、35 Micro Flash は国産(SEDIC製と言われている)である。これらのなかで、フォーカスと絞りを自然に操作できる小型軽量な機種は、Hanimex 35 Micro Flash とマミヤEF2の2機種となるだろう。特に前者はストロボ搭載による横幅の増加がなく、レンズ焦点距離が32mmと短めであることもあって厚みも沈胴機種並みに薄く、またレンズがF2.8と明るい。

東側の樹脂製カメラ

東側では西側に比べ、自動露出やオートフォーカス技術の導入が遅れたことや、廉価なカメラを大量生産する必要があったことから、樹脂製のカメラのバリエーションが西側よりも広い。特にフォーカス固定のカメラがほとんどなく、絞りも直接操作できるカメラが多い。


ベラルーシ BelOMO の製品。中央は高性能・高コストパフォーマンスで有名な10倍ルーペである。

表5 東側の軽量な樹脂製35mmカメラ
機種重さ高さ奥行き露出フォーカスその他
Kiev 35A180g101mm64mm33mm絞り優先AE目測要電池ミノックス35ELのコピー
LOMO LC-A250g107mm68mm44mmプログラムAE目測要電池コシナCX-2を参考
LOMO SMENA 8M230g115mm73mm60mmフルマニュアル目測シャッターチャージ別
LOMO SMENA 35190g112mm73mm56mmフルマニュアル目測シャッターチャージ別
BelOMO VILIA370g123mm74mm65mmフルマニュアル目測
BelOMO ELIKON 35C330g134mm85mm57mmプログラムAE目測要電池ストロボ内蔵
BelOMO ELIKON Autofocus410g133mm87mm57mmプログラムAEAF要電池ストロボ内蔵
ジャスピンコニカのコピー
BelOMO ELIKON 1不明、オリンパスXAに類似絞り優先AE距離計連動要電池オリンパスXAを参考
BelOMO ELIKON 2不明、オリンパスXAに類似絞り優先AE目測要電池オリンパスXA2を参考
BelOMO ELIKON 4不明134mm85mm57mm単速シャッター
絞り可変マニュアル
目測ストロボ内蔵
BelOMO ELIKON 535165g103mm74mm48mmプログラムマニュアル目測絞り値とシャッター速度が連動
Beier Beirette vsn2不明、レンズ突出単速シャッター
絞り可変マニュアル
目測

これらのカメラはいくつかのグループに分かれる。1つは西側の小型カメラのコピーか、それに近い形で作られたもの(Kiev 35A, LOMO LC-A, ELIKON 1, 2, 35C, autofocus)であるが、これらは電池を要し、またそれらのオリジナルのかわりに使用するメリットに乏しい(LOMOに見られるように、個性的な写りを楽しむなどの流儀はあるが)。次に、従来型の円筒形シャッターを備えたカメラがプラスチック化・単純化されて軽くなったもの(SMENA, VILIA, vsn2)であるが、これらはレンズがボディから大きく突出しているなど小型化が不十分なカメラが多い。シャッターチャージが別になっており多重露出防止機構もないため、失敗しやすいカメラも含まれる(SMENA 8M, SMENA 35)。

それらを除くと少し個性的なカメラが浮かび上がってくる。まず、BelOMOの ELIKON 4は電池不要の単速シャッターであるが、焦点合わせと絞りがともに数値できちんと指定できる、稀有なカメラだと言える。鏡筒の下側にメートル単位の距離指標があり、絞り値もISO感度や天気マークだけでなくF値で直接設定できる。表4のマミヤEF2に近いカメラであるが数が多く、ebay 等で入手が容易である。もう1つはELIKON 535であり、フォーカスはアイコン(ゾーンフォーカス)であるがF値は直接設定できる(天気マークもある)。絞り込むほどシャッター速度が連動して速くなる仕組みがあり、露出制御範囲が広いという特徴があり、さらに極めて軽量である。

まとめ


左から、BelOMO Elikon 535, Hanimex 35 Micro Flash, Olympus XA2

これまでに挙げたカメラの中で、ミニマルカメラの条件を満たすカメラは以下のものとなる(☆は当方が所有・確認したカメラ)。

シャッター速度と絞り値がそれぞれ調整可能な機種

単速シャッターとストロボを搭載した機種
機械式プログラムシャッターを備え、ストロボを内蔵していない機種
カメラの幅や厚みの条件を厳しく見ると、ストロボ関係(電池ボックスと発光部)をカメラ横に設けたマミヤとELIKON4は該当から外れる。SMENAの2台はレンズ部の突出が大きいのが携帯性の面では気になるだろう。結局、小型軽量なメカニカルカメラで、ピントと露出がちゃんと調整できるカメラという条件を満たすものは ローライB35, Hanimex 35 Micro Flash と Elikon 535 しか残らない

参考文献