Kodak Retina IIa / Schneider Retina-Xenon

レチナは蛇腹式フォールディングカメラ(折り畳み式カメラ)です.この後のモデルから,蛇腹はカバーに隠れて見えなくなりますが,すべて蛇腹を内蔵しています.蛇腹はその形状から,不要光の吸収特性が非常に優れており,単に遮光を実現するだけではなく,フレアの少ないハイコントラストな写真撮影を可能にします.




この IIa 型では,折り畳み式ながらもセルフコッキング(巻き上げと同時にシャッターの準備をする)と連動距離計(ファインダのピント合わせ機構とレンズの繰り出し量が連動している)を搭載しています.M,Xの記号のある円筒内にギアがあり,これがシャッターハウジング内のギアと結合してシャッターチャージを可能にしています.このギアを回転させるのは半月形断面の棒ですが,折り畳み時にはギアを貫通するようになっています.ギアの下にある逆U字型の部品はシャッターレリーズの連動機構です.レンズ保持・折り畳み機構はパンタグラフ(X字型の部品)で平行移動するように出来ていますが,そのパンタグラフの真ん中を交差するように配置された部品は距離計の連動機構です.

解説動画

レチナの内部

軍艦部を開けたところを後ろから撮っています.距離計の金物がすごい.

巻き上げ部.カバー内に見えるラックギア風のプレス部品が,巻き上げ動作をレンズ側へ伝達しシャッターをチャージするためのものです.水平面内の回転動作を,このラックでレンズ光軸に平行な軸周りの回転に変換しています.巻き上げ軸の上に伸びている2つの突起は,巻き上げレバー内のフィルムカウンタを進めるために使われています.

巻き上げ部を前から見たところです.おそらく,フィルム巻き上げ機構と,インターロック機構の付近でしょう.

同じく巻き上げ部をやや下から見ました.複雑な二重ギア,またラックを駆動するためのギアも見えます.

全体を前から見たところ.レンズの繰り出しによって,レンズボードから後ろへ延びている棒が前後されます.これが内部へ伝達され,手前の黒い部品が動かされます.

この黒い部品は,向かって右側の,大きいほうのファインダ窓の前のレンズを傾ける働きをもちます.普通の距離計は,小さな窓のほうの像を動かすのですが,レチナは反対に大きい像を動かす仕組みです.同時にパララックス補正もされます.

レンズボードから軍艦部への伝達機構は,折りたたみ時に退避されなければなりません.そのため,レールが斜めに切ってあり,折りたたみ時には,軍艦部内部へ繰り出し量を伝達するピンが向かって左方向へ退避されるようになっています.

巻き上げ部を真上から見たところ.

Retina IIa 視度補正改造

この時代のドイツ製カメラには多いそうですが,レチナもファインダの視度が無限遠のあたりに設定されています.このせいで,「レチナの距離計は見難い」という誤解を受けている節がありますが,視度をきちんと合わせると,S型ニコンやマキナ程度の見易さは得られます.(さすがに実像式の距離計のように,距離計像の境界線はくっきりとはしませんが,これは構造上の制約なのでしかたありません.)一度手持ちの視度補正レンズを用いて試してみてください.たいていの距離計カメラは視度をきちんと合わせれば非常に合わせやすいものです.

さてレチナには,専用の視度補正レンズがない(もしくは,事実上ない)のが難点です.外に貼り付けるという手がありますが,裏蓋の開閉と,フラッシュの挿入を両立させるためにはそれなりに小さいものを探す必要があります.レチナハウスで聞いてみたところ,「当店で発売したものは,適当な小さな視度補正レンズを持ち込んでいただければ,修理屋に入れさせてます」とのこと.そこで,自分で入れてみました.

まず,適当な視度補正レンズを入手します.ニコンのカメラの場合だと,本体のみで-1Dp の近視寄りとなっているため,-3Dp の視度補正レンズそのものの度は -2Dp となっています.私の場合,-2Dp 付近が見やすいので,ニコン用 -3Dp のレンズを購入しました.それを枠から外し,内部に入るように削ります.枠から外すのは,FM2 用のものよりも,F-801 用のもののほうが容易です.削るのには家庭用の砥石が利用可能です.水を掛けながら削ります.

次に,レチナの上蓋を外します.IIa の場合,左右のねじと,巻き上げ・撒き戻しのカニ目を外せば上蓋が外れます.次にファインダの接眼部の裏に,テープなどで視度補正レンズを固定します.上の写真は仮に置いているだけなのでずれていますが.つぎに組み付けます.ちょっと,視度補正レンズの厚みが問題となりますが,上蓋を固定するための金具をずらしたり,その金具の下にスペーサを挟むなどして蓋を取り付けます. 巻き上げレバーの組み付けはややこしいですが,がんばりましょう.フィルムカウンターが0になったとき,巻き上げを禁止する機構の部分が組み付けを難しくしています.

ついでに距離計の調整と内部の掃除をして,ますます見やすくなり,良くなりました.

Retina IIa 試写の結果


拡大(1350DPI)


拡大(1350DPI)

一部拡大1一部拡大2

これらの写真では,結構絞っていますが(おおよそ F8 から F11 程度でしょうか), ネガを見たところでは非常にシャープな印象を受けました.

レンズシャッターカメラは絞りの枚数が少ない場合が多いのですが,このレチナは 10枚も絞りがあり,絞ったときの画像の乱れが少ない.ハイライトの入るシーンでも安心して使えます. 口径蝕は F4 ぐらいでほぼなくなります.


拡大(1350DPI)

これは開放(か,1段程度絞った場合)の絵だと思います. 開放付近ではわずかに柔らかめですが, このスキャナで入力する限り,解像度は絞った場合に遜色ありません. どちらの場合も画面全体が非常に均一で,柔らかさも自然なので, 使いでのあるレンズと思います.

背景ボケが非常に自然で美しいですが,前ボケもこれに劣らずいい感じです.

ピントは前の「目」に合わせたつもりですが,距離計が信頼に足るものであり安心しました.


カラーポジフィルムでのテストもしてみました.


拡大(1350DPI)

三田の有馬富士です. これは F8 程度に絞っていると思います. 隅々まで非常にシャープです.


拡大(約 5800DPI)

これは部分拡大ですが,どこかわかりますか. この看板はフィルム上,幅 0.7mm です.


拡大(1350DPI)

地元兵庫県の,JR加古川線 社町駅です. これもおそらく F8 程度.

フィルム:Kodak T400CN, Fujifilm ASTIA100
スキャナ:Nikon COOLSCAN-II, Nikon COOLPIX910 + テレスコマイクロ 8×20D

Accessories for Retina IIa

サード・パーティ製レチナ用アクセサリ,および,流用アクセサリの紹介です.

接写装置(プロクサー)


PLEASANT AUTO-UP I for RETINA IIa

Pleasant というブランドの,いわゆるプロクサーです. これはレチナ IIa 専用ですが,他にも多種あったようです.

レチナ IIa は仕様上,最短撮影距離が3.5ftですが,実際にはフォーカスリングの 目盛りが 3.5ft までであり,そこからさらにかなりフォーカスリングが回るので, 約 2.5ft 程度まで寄れるようです.

このアクセサリは 1dp のクローズアップレンズになっているようで, 1m までしか寄れないカメラに装着すると,1m〜50cm まで寄れるようになります. レチナでは 40cm 程度まで寄れるようです.

別に 2dp の AUTO-UP II というのがあるようです.

このアクセサリはレンズ前枠にかぶせ式に取り付けます. 向かって右側のネジで取り付けます.

見て分かるように,クローズアップレンズ部,および距離計補正部はともに まったくのノンコートのようです.ちなみにこの世代のレチナは薄くコーティング されており,この後の IIIc などからより濃いシングルコートとなります.

このような元箱に入った状態で入手しました.ちゃんと元箱も Retina IIa 専用です. 取扱説明書には「東京大學教授 理學博士 小穴 純先生設計」であるとか,発明者が マミヤ光機製作所元技師であるとか,いろいろ紹介されています.

裏面は反射防止のため黒色塗装です.ここがめっきだと光って見づらくなります. 距離計補正部の左上の突起は近接時のパララックス補正指標です. E.Pマークがあります.これは輸出用だったことが分かります.

他のカメラ,例えばライカ,コニカ,コンタックス,ニコン,キヤノン用や, その他汎用品があったことがわかります.なかなか自信に満ちた取り説です.

フード


Konihood

これはレチナ用のアクセサリではありません.

レチナのレンズはノンコートではありませんし,4群6枚構成であり, それほど空気界面が多いわけではありませんが, やはり逆光には弱いといえます.

そこでフードですが,これがなかなか難しい. レチナ IIa のフィルタ径は 29.5mm,外径は 32mm のようです. このフィルタ系はレチナ系では多いようですが,他にはほとんどありません. フィルタは入手困難というほどではありませんが,(例えば大阪では八尾富クラシック店 においてあります)内径に適合するねじ込みフードはほとんど無いようです.

外形にマッチするかぶせ式もあまりありませんが,たまたま見つけたこのコニカ用の フードがうまく使えるようです.これは for KONICA・PEARL となっています. コニカではおそらく IIa とか IIIM の時代のものでしょう.

上記のような元箱に入った状態で購入しました. 上記のプロクサーと同様,ネジでしめこむかぶせ式ですが,当然これも 内側にバネがついていて傷が付くというようなことはありません.

レチナ IIc, IIIc などのモデルではフードはバヨネット式に取り付けられますが, これはレチナハウスでオリジナル制作のものが売っているようなので, これを購入するのがよいでしょう.私は純正品を委託で1万円で見ました.

ちなみに非常に深いこのフード,蹴られは?

結論からいうと「ぎりぎりセーフ」というところか. 目いっぱい絞り込んだ場合で,角の部分はぎりぎり蹴られないというところ. 逆にいえば,絞りを開いた場合には蹴られるわけです. 開放では,直径約 30mm の円より内側は蹴られなし.そこより外は次第に蹴られ, 四隅の部分で 50%程度蹴られているようです.つまり周辺光量低下が助長されます. つまり考えようによってはアウトでしょう.

なお近接時は問題ありません.

レチナ関連リンク集

Walker Mangum 氏のThe Kodak Collector's Page.(英語)

コダックによる公式な全コダックカメラリスト(英語).


撮影:Nikon COOLPIX 910