小型・軽量・堅実 リコー 500G/500GS
いつでも持ち歩け、旅行や散歩でも邪魔にならない小型軽量なカメラは永遠のテーマだ。目測式で軽さを追求するもよし、世界最小を競い合ったAFコンパクトカメラから選ぶもよし。しかし、やはりある程度、画作りにこだわるとすると、ピントや絞りを意図的にコントロールしたくなる。そういうわけで、これまで距離計(レンジファインダー)が搭載された小型軽量なカメラのなかから、オリンパスXAやコンタックスTを使ってきた。しかし、これら電子制御のカメラには整備できない部分や入手できない部品があり、そこが壊れれば使用できなくなってしまう。またこれらのカメラは発売から40年が経過し、劣化や狂いが生じてきている。実際、自身が所有しているXAとTは露出計の表示や自動露出がかなり狂ってきており、調整もできない。こうなるとやっぱり、分解整備(洗浄・注油)だけで正常な動作を取り戻しやすい機械式シャッターを搭載したカメラが安心だな・・ということになる。
そこで以下のような、かなり欲張りな条件を満たすカメラを探してみた。露出計や自動露出はあったほうが助かるが、最悪狂ってしまっても、機械式シャッターであれば使用し続けることができそうだし、マニュアル露出ができればより意図的な露出制御が可能になるからだ。
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必須条件
- 連動距離計を搭載すること
- シャッター速度と絞りの双方を自由に選べるマニュアル露出が可能であること
- 電池がなくてもマニュアル露出で写真が撮れること
さらに、できれば - 電池があれば、マニュアル露出時にも露出計が動作すること
- 電池があれば、自動露出が動作すること
- できるだけ小型軽量であること
特徴
リコー500Gは1972年に発売された。この種のレンズシャッター搭載カメラは1961年のキヤノネット以来、F1.7〜F2程度の明るいレンズを搭載するものが主流であった。ところがフィルムの高感度化の流れやローライ35の影響を受け、レンズをF2.8と暗くしたかわりに大幅に小型軽量化されたコニカC35(じゃ〜に〜コニカ)が1968年に発売され人気を博し、各社が追随した。リコーの500G/500GSもそのようなカメラの1つであり、40mm F2.8 のレンズを搭載し、重さは419.5g(500Gの実測、電池込み)である。
小型化を強く意識して設計されていることは、裏蓋の開き方にも現れている。各種部品を取り付けたアルミダイキャストフレームをアルミ薄板のカバーで前後からサンドイッチし、裏蓋がアイピースごと開く、いわゆる「モナカ構造」はリコーオートハーフに用いられた方式で、裏蓋が収まる溝の外壁が不要な分だけ小型化が可能であり、キヤノンデミ等にも採用された。ただしこの方式は溝による遮光ができず、ファインダアイピースからの光漏れも起こりやすいことから、モルトプレンを多用したカメラが多い。
ファインダ内には距離計の二重像やブライトフレームのほか露出計の指針があり、選択したシャッター速度に対して適正露出となる絞り値が表示される。鏡筒基部の絞りリングがAのポジションのときはこの指示値通りに絞りが自動的に設定されるシャッター速度優先AEが動作する。絞りリングをAからずらしてF2.8〜F16にしたときはマニュアル露出となり、このとき自動露出でないことを警告するため、ファインダ内左下の目立つ箇所に"M"の文字が現れる(上の写真はマニュアル露出時のものである)。
露出がオーバー・アンダーのとき(指針が赤いエリアにあるとき)や電池切れのときも、シャッターはロックされず切れる。さらに、マニュアル露出時も露出計が動作するのがこのカメラの大きな美点である(この種のコンパクトカメラでは、マニュアル露出時には露出計が動作しないカメラが多い)。電池(水銀電池 H-C または MR-44 が1個)は現在も入手しやすいLR-44/SR-44と同形状で露出に大きな狂いなくそのまま使用できるし、さらに内部の半固定抵抗で調整することも容易である。
シャッター速度は1/8〜1/500秒・バルブ(B)と必要十分で、これを設定するリングには左右に指掛かりが設けられている上、軽い力で操作できるのが好ましい。それに比べ絞りリングは不用意に回転しないよう(Aモードから不意に外れることがないよう)重めの操作感となっている。最短撮影距離は0.9m、またフィルム感度はレンズ前面のリングで設定し、設定可能な範囲はISO25〜800である。アクセサリシューはホットシュー(シンクロ接点付き。上の写真は、新品時から装着されていたと思われるシューカバーが装着されている)で、別途、シンクロソケットもボディ側面に備わる。
プログラムAE方式のシャッターではシャッター羽根が絞りを兼ねていることが多く、またそうでないものでも、絞り羽根が2枚だけで構成されているために開口形状がいびつになるものがある。それに対しこの機種では、シャッター羽根とは独立の4枚の絞り羽根が対称性の高い形状を保ち、さらに各辺がカーブしているため、大絞り(F4〜5.6)で円形に近い開口形状となることが好ましい。
前後のカバーがクロムメッキでなくアルミのアルマイト仕上げで、マットな質感がモダンな印象を与える(500GSに関しては銘板がオールドな印象であるが)。その他、軍艦部(上部)の巻き上げレバー、そのすぐ横に備わる自動復元順算式のフィルムカウンター、巻き戻しクランクを上へ引くと裏蓋が開く機構、光軸の真下に備わる三脚穴、定番の位置に置かれたセルフタイマーレバーなど、全てが素直な配置で、大変に使いやすい。外部調光式のストロボが使用できる今では無用の長物のフラッシュマチック機構が搭載されていないのもシンプルなわかりやすさに寄与している。面積の大きなシャッターボタンと相まって、針抑え式のAEのためシャッターストロークはやや長いが押下力は大きくなく、切れ方も自然である。
500G と 500GS の違いは僅かである。機能や仕様に違いはなく、カメラ前面のデザイン(銘板やファインダ窓の角の丸さ)のほか、レンズ回りの色使いが異なる。500Gのほうはシャッター速度リングが銀色であるほか、文字の色が異なり、500GSのほうが視認性がよい。また、500GSではフォーカスリングの2.5mのところに緑の丸印があり、シャッター速度も1/125秒が緑色になっている。絞りリングのAとともに全てを緑色に合わせておけば、屋外の一般撮影では操作なしに撮影できる、という目印になっている。また、シャッター速度リングの左右に付けられた指当ての形状も少し異なる(凹か凸か)。
500Gの外観は当時のカメラとして一般的でなかったため、約1年でデザインが変更されたということだが、今となっては500Gのほうが現代的で好ましいように感じられる。貼り付け式の銘板は、OEM商品(HANIMEX compact R)との共通化を狙った変更かもしれない。実際、500GXになり銘板やファインダ回りのデザインテイストはもとに戻されている。ただし、銀色の額縁の中に疑革が貼られた500Gのデザインは500Gだけのもので、これこそが魅力的だとする意見も多く聞く。
リコー500Gシリーズとその展開
リコー500Gシリーズには外観・素材・構造の変更や機能の増減により様々なバリエーションが存在する。距離計を省いた500ST、さらにセルフタイマーも省いた500ZFなどもあるが、ここでは距離計を搭載した機種について整理する。
国内向けには 500G(銀), 500GS(銀), 500GX(黒) の3機種が販売されたが、海外ではより多くのバリエーションが販売された。また、途中から台湾リコーでの製造が行われ、最終的には全ての製造が台湾に移管されたと考えられる。海外で販売されたものはほとんどすべてが台湾製のようである(JAPANの刻印のあるものは、海外ではほとんど見つからない)。500GX は1978年から台湾製になったとの情報があるが、日本製と明記された個体(日本製の500G/500GSにはシリアルナンバープレートの下の貼革に JAPAN の刻印がある)が確認できるものは見つからなかった。また、500G(銀)や500GSにも台湾製のものがある。
ボディ構造は大きく分けて2種類があり、金属フレーム(銀色のフィルムレールで識別できる)が用いられたものは全て、モナカ構造である。それに対し樹脂フレームのものは全て、深絞りのトップカバーを上からはめ込んだ普通の構造となっており、フィルム装填時、背面の下3/4が開く構造(アイピースはボディに残る)となっている。この樹脂フレームのものは全て台湾製のようだ。電池室は、金属フレームでは円形の蓋をコインで開閉する方式で、樹脂フレームのものは樹脂製の蓋を開けて電池を横向きに挿入する方式となっている。樹脂製の機種は金属製の機種より軽量化されており、メカニカルシャッターを搭載するレンジファインダーカメラの中で最も軽いものの1つである。
ボディの機能は大きく分けて2種類で、多重露光・シャッターロック・バッテリーチェッカー・巻き上げインジケーター・フィルム装填インジケータの5つの機能が搭載されたものと、そうでないものに分かれる。この機能の有無はボディ材質・構造によらない。また、スプリング式のワインダー "SP Winder" が海外で発売されたが、これに対応したカップリングが搭載されているのは原則、樹脂フレームのものになる(例外として、SEARS 35rf は樹脂フレームだがワインダーのカップリングがない)。
一部のモデルは米国の通販大手 Sears と、オーストラリアの大手写真商社 Hanimex にOEM供給された。これらはそれぞれ対応するリコー銘のボディがあるが、上記のようにSears 35rfは500RFと微妙に仕様が異なる。ボディ色は、銘板が貼り付けられたもの(500GS, HANIMEX compact R)は銀色のみで、Sears から発売されたものは黒のみである。また2種類ある500GXのうち、樹脂タイプのものでは銀色ものが見当たらない。それ以外は全て、銀色と黒の両方が見つかる。GX-1 は現在も主にインドネシア市場で見られる。
Sears は年に2回、約1,000ページのカタログを制作しており、それにより発売期間を推定できる。Searsのカタログを網羅しているサイトで調べると、35|RFの掲載は初出が1974年秋冬カタログ、最終が1980年春夏カタログで、発売期間が比較的長い。35rfはその直後の1980年秋冬カタログに交代する形で登場し、1982年秋冬カタログが最終となっている。35|RF, 35rfは台湾製のものしか見つからないことを考えると、比較的早期から台湾での製造が開始されていたことになる。沼田 郷 著「カメラメーカーの海外生産」によると台湾へのリコーの進出は1966年で、当初は組み立てコストの低減のため部品のほぼ全量を日本から輸送し組み立てのみ行うノックダウン生産が一般的であったとのことである。高付加価値の一眼レフカメラに比べてコンパクトカメラは価格競争が激しく、組み立てコストだけでも低減を図ろうとした当時の状況がうかがえる。また35rfが発売されていた頃は急速にAFコンパクトカメラが市場を席巻しつつあり、これが原因で短期間での発売終了となったのであろうことがカタログからも見て取れる。
撮影例
その他の撮影例はphotogradation - a gallery of light and shadowへ。
コニカC35用オートアップの流用
リコー500G/GS/GXの最短撮影距離は、この種の距離計連動カメラでは標準的な0.9mである。一眼レフカメラに比べて近接撮影に弱いため、この種の接写アクセサリがあると便利である。小西六写真工業は戦後すぐのカメラ(パール、コニカ)に対しオートアップを自社ブランドから販売していたが、これはそれからずっと時代が下ったコニカC35の時代にも行われていた。C35シリーズには、フィルタネジ46mm、外径48mmのコニカC35/C35フラッシュマチック用と、49/51mmのコニカC35FD用の2種類が販売されていたが、そのうちC35用の「KONICA AUTO-UP CA」がそのままリコー500G/GS/GX 用に使用できる。初期のオートアップと異なり、撮影レンズ側(クローズアップレンズ側)にはコーティングも施されている。このカメラはフォーカシングしてもフィルタ枠が回転・前後移動しないので、使い心地や安定感も良い。
このオートアップには上の写真のようなケースが付属していた。コニカ銘があり、オートアップの外形に合わせて少し膨らみのある、フィット感のある形状となっている。
他機種との比較
前述の6条件を満たすカメラはかなり限られる。このリコー500G/GS/GXのほか、部品の樹脂化が進んだ500RF/ME/GX-1は全ての条件を満たすものの中ではもっとも軽いカメラの1つと考えられ、さらに後者はメカニカルシャッターを搭載したすべてのレンジファインダーカメラの中で最も軽量である可能性がある。詳しくは、小型・軽量 35mm レンジファインダーカメラ購入ガイドを参照されたい。
レチナIIaとの比較
左:レチナIIa, 右:リコー 500GS
この種のカメラは本体のサイズが小さくても、レンズの突出がじゃまになりやすいものである。そこで折りたたみ式のカメラの中から小型軽量なものとして、レチナIIaと比較してみた。重さはレチナIIa(実測553g)に対して500Gは420gで、約3/4の重さである。高さや幅は500G/GSのほうが約1cmずつ小さいが、厚みは500G/GSのほうが1cmあまり大きい。とはいえ、焦点距離が10mm短く、レンズの明るさも1段暗いことから、思いのほかレンズ突出量の差は大きくないとも言える。
機能面では、露出計、シャッター優先AE、フィルムカウンターの自動復元、ブライトフレーム、ホットシューの有無などの点で500G/GSにメリットがある。一方でレチナIIaはレンズが1段明るく、1/8秒より長いスローシャッターを搭載するため、対応できる明るさの範囲はより広い。細かな点では、フィルム巻き戻しのしやすさ(ノブvsクランク)などにも時代の違いが見て取れる。
レチナにはオートアップが存在し近接撮影が可能な点が大きなメリットであったが、前述のように500G/GSにコニカC35のオートアップが流用できるため、この点での差異もなくなった。レンズ焦点距離が異なるが、レチナのほうがレンズ口径を活かして望遠感のある画作りがしやすいのに対し、普段づかいでは40mmの画角に快適さがある。
ミノルタCLEとの比較
左:ミノルタCLE + M-ROKKOR 40mm F2, 右:リコー 500GS
同じ40mmレンズを搭載するミノルタCLEと比べてみた。レンズの明るさが1段異なるし、さらにミノルタCLEはレンズ交換ができるので、重量が増すものの、より明るいノクトンクラシック 40mm F1.4 を装着して撮影することもできる。重さもCLEは40mmF2レンズとセットで480g程度と軽く、1割少々しか違わない。ただし、カメラの大きさは思いのほか異なるように感じる。
使い勝手の面では、マニュアル露出時の露出計作動の有無が大きい。CLEは電池がないとそもそも動作しないカメラであり、その点でも500G/GSの優位性が感じられる。もっとも、電池はポピュラーなLR44であり、入手容易性に問題はない。自動露出前提で考えると500G/GSの優位性は乏しい。ただカメラそのものの性能ではないが、価格を考えると、500G/GSのほうが気楽に毎日持ち歩けるという良さはありそうだ。また流用技であるが、500G/GSならオートアップが使用できる点も見逃せない。
フジカコンパクトデラックスとの比較
左:リコー 500GS、右:フジカ コンパクトデラックス
同時代のカメラとして、電池切れでもマニュアル露出で撮影ができ、電池があれば自動露出に加えマニュアル露出時に露出計が動作するカメラであるフジカコンパクトデラックスと並べてみた。このカメラはF1.8の大口径レンズを備えており、そのような機種の中では決して重いほうのカメラではないが、それでも重量比は420g:626gで約1.5倍である。それぞれ単体の写真で見れば大きさの違いに気づきにくいが、このように並べてみると、一回り、いや、二回りほど大きさが違うといっても過言ではないだろう。
レンズの明るさの違いについては、どちらも最高シャッター速度が1/500秒なので、日中屋外では作画に差が出にくい点は留意すべきである。また操作性の面では、フジカはボディ下部の巻き上げやボディ背面のピント合わせなど一部が特殊であるのに対し、500G/GSは全てが定番の配置のため、迷わず使用できる。また、ホットシューの有無も屋内撮影をする場合は使い勝手に大きく影響するだろう。
自動露出とメカニカルシャッターの両立
電池切れでもマニュアル露出で撮影ができ、電池があれば自動露出が使用できる・・そういうカメラは、実はこの種のレンズシャッター式コンパクトカメラにこそ多い。一眼レフカメラにも電池切れ時のために非常用シャッターを備えるものがあるが(例:ニコンF3/FE/EM/FG/FA等)、多くは1速だけである。自動露出を搭載しながらも電池切れ時にシャッター速度を広範に変化させられるカメラは、ニコンFM3A・キヤノンEFなど、ごく一部に限られる。またレンズ交換式レンジファインダーカメラでは唯一ライカM7が、電池切れ時に1/60と1/125秒の2速が使用できるようになっているのみである。一方レンズシャッター式コンパクトカメラでは機械式シャッターに自動露出機構(露出計の指針を挟み込んで固定し、その位置を用いて絞りを制御する機構)を組み合わせたカメラが多く、キヤノネットやフジカ、ミノルタ、オリンパス等に電池切れ時にもフルマニュアル撮影が可能なカメラがいくらか存在する。しかし、電池があってもマニュアル露出モード時は露出計が動作しないもの(キヤノネットシリーズ、オリンパス35RC/35RD、ミノルタHI-MATIC 7sIIなど)、露出計がシャッターと絞りの双方に対し非連動のもの(オリンパス35SP, ミノルタHI-MATIC 7など)があり、マニュアル露出時にも使い勝手の良い露出計が動作するものは限られる。その中で、前述のフジカコンパクトデラックスのほか ミノルタ AL-E や、古くはコダック Retina Automatic III はマニュアル露出時にも露出計がシャッター速度に連動する数少ないカメラであるが、小型軽量を500g以下と定義するなら、前述の6条件すべてを満たすカメラはこのリコー500G系しか見つけられていない(他にあれば、教えて下さい)。
最も軽量な機械式レンジファインダーカメラはどれか
条件5(自動露出の搭載)を外すと多くのカメラが該当しそうだが、残念ながら小型軽量なカメラはあまり増えない。レンズ交換式カメラではおそらくライカ(ライツミノルタ)CLが最軽量で、ベッサR(395g)も軽いが、レンズの重さを加えると500gに近くなる。レンズ固定式のマニュアルカメラではミノルチナSやペトリRACERが小型軽量で定評があるが、いずれも500g前後で、やはり500G/GS/GXの軽さには及ばない。条件4(マニュアル露出モードでの露出計の作動)を外せばオリンパス35RCが対象に入る。35RCは410gで500G/GS(420g)より軽量である。ただし、リコー 500Gシリーズには台湾リコーが製造した樹脂フレーム製のバリエーションがあり(前述)、このうち500RFは取扱説明書によると公称380gであり、実測368gであるとする情報もある。おそらくこれか、500RF からさらにモーターカップリングを取り除いた SEARS 35rf が、距離計を搭載した機械式シャッター搭載カメラとしては最も軽量なものであると思われる。
もちろん、条件2, 3, 4 を除外して電子制御の自動露出専用カメラまで範囲を広げれば、オリンパスXA, コンタックスT, ペトリRE-II、アグファ Optima 1535 Sensor などの圧倒的に軽量なカメラが選択肢に入る。詳細はこちらを参照されたい。
整備
シャッターの動作は良好だったため、ファインダーの清掃・調整と露出計の調整についてのみ行った。なお、距離計の調整のみであれば、分解は不要である。
フロントカバーの取り外し
フロントカバーを外したところ。マニュアルモード表示を切り替えるレバーがフレームマスク前に見える
- シャッター速度ダイヤル左右のノブを外す(ネジ2つを抜く)
- 絞りリングを外す(3箇所のイモネジを緩める。抜いてしまわない方が良い)
- セルフタイマーレバーを外す(カニ目の正ネジを外す)
- 貼り革を左右から少し剥がし、ネジを外す(右に2つ、左に2つ)
ご覧のように、このカメラはフレームがアルミダイキャスト製で、外装カバー類も全て金属製である。レンズ周り(絞り・シャッター速度・フォーカスの3つのリングやフィルタ枠)も金属製で、プラスチックが使用されているのはレンズ銘板やフィルム感度設定リング、シャッター速度リングの指掛かりと、絶縁性が必要なホットシュー部分ぐらいである。
上カバーの取り外し
上カバーを外し、さらにファインダのカバーを外したところ。
- 巻き上げノブ中央のネジを外す。巻き上げノブ中央上のカバーはカニ目に見えるが、貼り付けてあるだけの薄板である。カニメ風の穴から細い棒などで持ち上げるようにして外すしかないが、接着強度によっては傷を入れずに外すのは難しいことがある。次に、カバーを外したら現れる中央のプラスネジを抜く。
- 巻き上げノブを外す。巻き上げノブの上下に金属製の部品が付いているので、表裏がわからなくならないように注意して取り外す(上はレバー予備角の遊びに摩擦を与えるためのバネ。下は、その予備角の遊びを作るための部品。)
- 巻き上げノブを外すと、さらにその下にリングが締められているので、これをカニメ回しで外す。
- 巻き戻しノブを外す。フィルム側のキーをドライバー等で固定して、ノブを反時計回りに回して抜く。中央のネジは外す必要がない。
- 裏蓋とフロントカバーに隠されていたプラスネジを外す。
ファインダと露出計の清掃・調整
ファインダの清掃のためには、ファインダを覆っている黒い薄板のカバーを外す(ネジ2つ)。これでファインダのほとんどすべての箇所が清掃可能になる。ハーフミラーは剥がれやすいので、慎重に(確認しながら)清掃する。対物レンズは凹レンズ2枚で構成されていて、その間が清掃しにくいので、前側だけ外しても良い(レンズ上の接着剤のような樹脂を外すと外れる)。清掃後、レンズを戻して、上からパーマセルなどで固定すれば、前側はカバーで固定されるので問題ない。距離計については、赤丸部分のネジで上下調整ができる。このネジは、分解せずアクセサリシュー(ネジ3つ)を外すだけでアクセスできるようだ。また、裏蓋を開けたところのフィルムレールとファインダアイピースの間にあるネジを外すと、左右の調整が可能になる(よって、カバー類を外さなくても距離計の調整は可能である)。
露出計は、巻き上げレバー近くの半固定抵抗で調整できる。調整前に元の状態の写真をとっておき、戻せるようにしておくとよい。私の場合、前側(レンズ側)の半固定抵抗を調整するだけで、広い輝度範囲でLR44で適正露出が得られるようになった。
参考文献
- 沼田 郷, カメラメーカーの海外生産 --1970年代のキヤノン,ペンタックスの事例を中心に--、経済科学研究所 紀要No.34 (2004)
- Sears catalog (Catalogs & Wishbooks) at https://christmas.musetechnical.com/
- Manual of RICOH 500RF at https://www.cameramanuals.org/ricoh_pdf/ricoh_500_rf.pdf