線路
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| 前回に続いて、ハーフ判である。 これまで、ハーフ判はおろか35mm判もあまり作品づくりには使用してこなかった。その理由は画質ではなく、主に自身の暗室作業の下手さと面倒さによるものだった。判は小さいほど、現像の安定性やホコリに敏感になる。微小な気泡や上下のパーフォレーションの穴の影響でムラが出来たりするほか、細かなホコリが拡大されるので、印画紙に引き伸ばし、現像、乾燥まで終わってから、大きなホコリが乗っていたことに気づいてがっかりしたりする。また、単純にリールへの巻き込みが中判のほうが得意だったこともある。35mmは長い分だけリールの針金が細く、巻き込みミスに気づきにくいことがあった。 そういうわけで、買い込んでいたフィルムは120ばかり減り、135のストックばかりになっていた上に、昨今のフィルム価格の高騰、そこにハーフ判カメラの新登場があって、毛嫌いせずにちょっとやってみるか。ということになった。 今回使用したカメラは、ハーフ判の定番、オリンパスペンである。しかも、世にハーフ判を広めた立役者、1959年の、初代である。このカメラには露出計も距離計もなく、シャッター速度は1/25〜1/200の4段階しかない。しかし、これでなにか不自由があるわけではない。1959年当時と違い、現在普通に手に入るフィルムの感度は低くてもISO100で、日中屋外であれば1/25よりも低速が必要になることなどない。被写界深度が深く、たいしてぼけないので、無理に開放絞りを使う必然性もなく、よってシャッター速度の高速側もこれで十分である。当然、距離計も不必要である。1mより離れた物体を撮るのに目測で精度が不足することはないし、このカメラは50cm程度まで寄れるが、距離計がついているとそうはいかない。 使ってみると、設計者(米谷氏)の写真撮影経験の深さを感じさせられる。普通、これぐらい被写界深度が深いカメラなら、フォーカスリングはもっと回転角を狭くする。しかし、このカメラのレンズ性能は非常に高いため、低感度のフィルムを使えば、いわゆる「許容錯乱円径」よりもずっと細かな部分までよく写るので、距離を精密に設定できることの利点があるのだ。レンズの絞りの操作性なども同様である。レンズ周囲の絞りリングを前へ3mmほど伸ばせば、より径の大きな絞りリングを搭載することも出来たであろうところ、少し凹ませた内側の小さなリングを前から操作させることで小型化を優先した設計は、ライツのエルマーレンズに倣ったのだろうと思う。軽いシャッターボタンや巻き上げの感触なども、ライカ並である。 当時、このカメラが発売されたとき、「ペンすなっぷめいさく展」と銘打ち、各界著名人(文筆家、画家、俳優など)がこのカメラで撮影した写真を全紙判に伸ばし、全国を巡回したという。全紙に伸ばしてもシャープであることに驚かされた、というような評判が残っているが、今、使ってみると、それに何の誇張もないことがわかる。画面の端まで、極めてシャープ。確かにフィルムの粒状感は感じられるが、モノクロらしい質感に満ちていて、かえって好ましい。デジタル画像として取り込むだけでなく、久々にプリントでもするかな、と思わされた。当時たった6,000円だったカメラだが、これでほんとうになんの不満もない。驚異的である。
OLYMPUS PEN(初代), D Zuiko 2.8cm F3.5
(upload : Jul., 2024.)
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