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フィルム式カメラが久しぶりに国内メーカから登場した。なんとハーフ判で、売れ行きも良いようだ。フィルムの面白さに触れる人が増えそうで、良いことだなあと思いつつ、SNSでの反応を見てみると、すっかり様変わりした銀塩写真の環境を感じずにはいられなかった。

「現像」で検索すると、出てくるのはほとんどRAW現像のことばかり。それでは「フィルム現像」で、と検索すると、今度は店に現像に出すまではいいが、その後データだけ送ってもらい、ネガは破棄する人が多いのだという。店側もフィルムを返却しないことにしているところが増えているらしく、それではフィルムで撮る意味がないじゃないか、と思ってしまった。市販のフィルムで撮って店で現像し、データを受け取るだけなら、自分がなんらか工夫したり調整したりする部分がなく、それならデジタルでいい。そう感じたが、それを言うばかりでは伝わらない。モノクロ自家現像などの面白さを伝えられないか、と考えて、少し自分でもフィルムで遊んでみることにした。

この、窓枠越しのパノラマ写真風に仕上げる技法は、連続写真同様、ハーフ判で古くからときどき見られる手法だが、写真は1コマずつバラバラに得られ、横につながっているなど思いもしないデジタル世代にはなかなか思いつかない方法かもしれない。フィルムを送る方向へカメラを動かす(例えば右手側へ巻き上げるカメラであれば、カメラを左から右へ動かしながら撮影する)と良い。できれば、ピントや露出など固定できるものは固定したほうが繋がりがきれいになる。カメラの視野率の関係で、枠ピッタリでカメラを振っても、隣り合ったコマで画像が重複することが多い。もう少し大きく振って、窓枠に隠れた部分が見えないようにも撮れると思うが、熟練を要するだろう。

店にフィルムの現像を頼むとパノラマの途中でカットされる危険があるが、「長巻きで返却」の指定にすると切らずに丸ごと返ってくる(ただし、それに対応してくれる現像所がどれぐらいあるかが問題だが)。またハーフ判は撮影コマ数が多いが、自家現像なら途中で巻き戻して撮影したところまで現像し、続きのフィルムを別のカメラで使うこともできる(カットする位置は勘になる)。パーフォレーションまで取り込むにはフィルムスキャナが使えないので、今回は高解像度のデジタルカメラとライトボックス、アンチニュートンガラスを用いて撮影したが、できれば引き伸ばし機でプリントしたいところだ。

最近はデジタルカメラにもフィルムシミュレーションやLUT(ルックアップテーブル)機能が搭載され、フィルム風写真に加工するのも流行っているようだ。しかし見てみると、「フィルムってこんなに荒くないよ」「こんなに色がヘンテコなわけでもないし」などと思わされることが多い。本物を見たことがなく、単にノスタルジックでクラシックなものをフィルム写真と呼んでいる風潮もある。フィルムに触れ、本当のフィルムとはどんなものか、体験する人が増えてくれれば嬉しい。

今回、使用したカメラは富士写真フイルム(現 富士フイルム)のフジカドライブである。フジカハーフというハーフ判カメラの巻き上げレバーを取り除き、底にスプリングモーターを備えたカメラであるが、ジーッという巻き上げ音が、1980年代以降のモーター巻き上げのカメラに似た音なのが面白い。セレン式のプログラム自動露出だが、ファインダ内で決定されたシャッター速度と絞り値を見ることができ、またマニュアル露出も自由にできる(シャッター速度と絞り値がともに自由に選択できる)のが良い。レンズも4群5枚の贅沢なフジノンレンズが装着されており、写りは上々である。セレン部分もうまくファインダ窓枠に溶け込んでおり、丸みのあるデザインもモダンで、とても60年前のカメラ(1964年発売)とは思えない。

 

Fujifilm Fujica Drive, Fujinon 2.8cm F2.8
Fujifilm Neopan ACROS,シュテックラー改処方(中川式)

(upload : Jun., 2024.)

 

 


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