コマフレックスS
ベビーローライ(グレイ)を入手してからというもの, 35mm カメラのように,いや場合によってはそれ以上に小さくて軽快であり, なおかつ中判カメラのように様々な形態のカメラが存在した 127 フィルムカメラに興味が向いてしまい,やはりその中でもキワモノの香りがする コマフレックスに触手が伸びてしまった(違う.食指が動いてしまった).
いや,1つには,コーワというメーカの魅力があることは否定できないだろう. コーワは,一連のレンズ交換式レンズシャッター中判一眼レフカメラ, コーワシックスの系列を発売したことで(一部では)よく知られているが, 現在ほとんどの人たち(善良な一般市民?)は,コルゲンコーワのメーカが カメラを作っていたとは思いもよらないようだ.
コーワは,これもまた一部では良く知られているように,二眼レフにおいては 大変すばらしい品質を誇るカロフレックスを発売していたことで有名だ. このカメラは,二眼レフカメラとしては随一の操作性を誇るのではないかと思う. なぜなら,ローライフレックスのようにクランク巻き上げでありながら, クランクと同じ側(同軸)に繰り出しノブを設置してあるからである. 要するにローライフレックスとローライコードの利点を兼ね備えているわけで, 中判の二眼レフや一部の66判一眼レフカメラを利用した人にはすぐに了解できることと思う.
カロフレックスは,それだけではなく,巻き上げクランクのずっと上, ファインダフードの脇の部分に上向きにフィルムカウンタが表示されているとか (もちろん,絞りとシャッター速度も上から見える) スクリーンにコンデンサレンズが設置されていて,フレネルの縞も無く, なおかつ周囲まで明るいというスクリーンを持つこと, またこのスクリーンが若干前傾されていることでも知られている.
しかしなんといってもレンズが良いらしく,これを使った人は口を揃えて すばらしいレンズだと言うではないか.その後のコーワシックス系列や, 35mm 判カメラにおいてもレンズは高い評価を得ているものが多く, 俄然,コーワに興味が出ようというもの. またコーワは終始,レンズシャッター搭載カメラばかりを発売しており, ビハインドシャッター式でありながら,レンズ交換式の距離計連動カメラを 発売したこともある.このカメラは F1.4 の標準レンズが設定されており, またその他の焦点距離も距離計連動するというものであった.
が,新品当時は100ドルに達しない価格であったようで, 内容としては単純で制限された仕様になっている. 具体的には,一眼レフカメラでありながらレンズは固定式で交換できず, コーワらしくフロントコンバータで他の画角に対応するというものであった. またフォーカシングは前玉回転式で,要するにレンズ全体が繰り出されるのではなく, 3群4枚のいわゆるテッサー型レンズの第1レンズのみが繰り出される. 一見,二眼レフのようにボードごと前進しそうに見えるが誤解なきよう.
またセルフコッキング機構はなく,ボディ側のフィルム巻き上げ・ミラーチャージと, レンズシャッターのシャッターチャージはそれぞれ順番に操作してやらねばならない. ただし相互にインターロックされているので,シャッターを切らずに次のコマへ フィルムを進めてしまうとか,逆にフィルムを進めずにシャッターをチャージする (多重露光どころか,シャッターが開放されて真っ白にカブってしまうよ!) というような失態を演じることはない.
またレンズシャッター式一眼レフであり,ハッセルと同様にクイックリターンではないので, ミラーが下げられ,またシャッターがチャージされないとファインダーには像が現れず, そのためにシャッターをチャージし忘れたままシャッターを切ろうとしてしまうこともない. むしろ部品点数を増やさずに,軽量で壊れにくくしてくれているのはありがたい.
もちろん,このカメラは "Komaflex-S" であり,S がスタンダードの意であるとするならば, 後により仕様を向上させた "Komaflex-D" (デラックス?)が企画されていたのかもしれない. ・・が,実際には,スーパースライドブームはあっけなく終息し,このカメラは世界展開 されることもなければ後継機種が出ることも無く,その使命を終えたのであった. ただし,後にローライフレックスSLXに真似され引き継がれた(?)この「縦長」スタイルは, しばしの潜伏期間を経て昇華され,コーワシックスへと結実するのであった (実際には,この種のデザインは,フジタ66など先例があるんですけどね).
しかし届いてみると,操作しているうちにあちこちの具合悪い個所が次々と発覚. 結局,レンズボード部(シャッター機構まわり),左手側(ミラー機構),右手側 (巻き止め・フィルムカウンタ機構)全てを修理することになってしまった. しかも折れたビスや歯が欠けたギア,外装のネジもいくつか足りないし,で, まだ完調とは言いがたい(若干のコツが必要だ)が,とりあえず撮影は出来るようになった.
なにせ,次々おかしいところが見つかるので,修理には割と多くの時間を浪費して しまったが,これというのも,ガラスマットのくせにファインダが結構明るく, またピントの切れもなかなかよさそうで,フォーカシングが楽しい種類のカメラで あるということが後押ししていたのかもしれない. またミラーの,ソフトな空気銃のような音と,ちいさいシャッターの音が どことなくハッセルブラッド的で,プチハッセル的な楽しさがある.
レンズは当然コーワ製のプロミナーで,ローライよりちょっと長めで明るい 65mm F2.8 である.シャッターはセイコーシャ SLV である.もちろん, シャッターをチャージすると絞りは開放され,明るい像を観察することが出来る. ファインダはガラスマットの下面にフレネルレンズが設置されている.
購入時から張り革はボロボロで,これは革の材質の問題があるが,修理のために 革を剥がそうとすると千切れてしまうのでしかたなかろう.汚い部分はすべて剥がし, 新しく貼りなおしてやった.ただし貼り付ける革に多額の投資するのは避けたかったので, 文房具(書類を挟んで記入するボード)の外装の擬革を使った. 余談ながら,カメラの外装の革をクラシックカメラ店で購入すると,確かに品質は良いが 非常に高価である.100円ショップや文房具屋でちょっと高級なバインダーや日記帳を 物色してみると良い.
写真で見るとローライのほうがはるかに細身で背が高いように見えるが,実際には 全長は 1cm ぐらいしか変わらないし,ボディ部の幅も見た目ほどは違わず,5mm も 違わないように思う.だが,やはりデザインの抑揚などの関係か,コマフレックスの ほうがずんぐりした印象を強く持たされ,またはるかに大きく見えてしまう. 重量はともに 700g 程度で変わらない.
構造の問題もあるが,奥行きは圧倒的にローライのほうが小さい. コマフレックスは圧板の後ろやボディ下部に 多くの空間を抱えているし,ファインダフードを覗くとスクリーンは奥深くに 埋没しており,もうちょっと合理的なデザインは出来なかったものか?と思われる. 思うに,ハッセルブラッドのような 「真桑瓜」 タイプにすれば,もっと愛らしくスマートなデザインになったと思うのだが.
最後に,革の張替え前の写真を置いておく..現在も,唯一綺麗であった裏ブタ部分のみ, オリジナルの革を残してある.ファインダフードの赤いポッチには,"Kowa" ではなく "Koma" と書いてある.
(2004.3.28追記)
弟が突然(彼はいつも突然なのだが),コーワシックスを購入したと連絡してきた.ハッセルブラッドやローライフレックス(二眼だけでなく,SLX や 6008integralも)を散々買っては売り,を繰り返してきた彼にとっては,とてもコストパフォーマンスのよいカメラらしいし,気に入っているようだ.早速並べて,いつもお世話になっている錠剤と記念撮影.ちなみに楕円に Kowa と斜体で書かれたロゴマークは,コーワシックスのファインダの蓋と,錠剤ラベルの最上とに誇らしげに光る.どこか物憂げな後姿に類似性が見て取れる.
私見だがコーワシックスの中から1台選ぶなら,この初代のタイプに限ると思う.ブロニカが広く認知される中,バック交換が出来ないシンプルな形態を敢えて採用したのは見識と言えるし,実際に使いやすい.しかし商業的にはスペックで劣るためか苦戦したようで,あとから無理矢理バック交換などの機能を付け足していったことで余計にコンセプトがボケてしまった.結局このシリーズのカメラの迷走が興和のカメラ事業を撤退に追いやったのではないかと思っている.
リンク
四四倶楽部,127フィルム使用カメラの総本山.
NIKOMAT旋風のコマフレックスのページ,お勧め.・・しかし,ニコマートというキーワードが出て来るところにどことなく親近感というかなんというか・・・
海外サイト(英語),大変詳しく説明してあります.
127フィルムの作り方,専用の道具を使わない方法.
グレイス・フォト・リミテッドで,MACO の 4x4 フィルムが購入できます.