コーワ カロフレックスK2
2007年5月

カロフレックスは本ホームページ別頁で紹介しているコマフレックスSと同じく、興和による製品である。興和(コーワ)は現在はキャベジンやコルゲンなどの医薬品で有名だが、過去様々なカメラを製造販売していた。現在カメラそのものは製造していないものの、スポッティングスコープと呼ばれるバードウォッチング用の望遠鏡などで光学製品を製造しているし、画像処理など産業用の撮影レンズも作っている、立派な光学機器メーカである。
このカメラは二眼レフを使用するようになってから、また、コマフレックスを入手してからも、常に興味を持っていたカメラであった。その理由はいくつかある。まず操作性であるが、二眼レフではたいていピント合わせをボディ側面のフォーカシングノブにより行う。この方式はレンズ周囲をねじることによりピント合わせを行う通常の方式に比べ操作が軽く、迅速にピント合わせができることから個人的に気に入っている方式である。実際、ブロニカでも初期の一部の機種(DとS)ではこの方式が採用されており、後のもの(通常のヘリコイド方式)よりも操作しやすい。
二眼レフでは一部の機種(ミノルタやメオプタ、リコーなど)を除きほとんどの機種がこの方法でピント合わせをするのだが、しかしそのノブの位置が問題であった。ローライコードなどでは右手側でピント合わせが出来るのだが、それが後のローライフレックスになってそのまま左手側にノブが移動してしまったのだ。では持ち替えて左手でピント合わせをしても良いようなものだが、実はそうはいかない。巻き上げ操作は相変わらず右手側で行うため、巻き上げとピント合わせで持ち替えの必要が生じる。それはローライの保持方法が違うからだよ、という意見もあり、両手で対称に左右から包むように持てば良いと言われるのだが、どうもこの方法ではうまく巻き上げ・ピント合わせとシャッター操作ができなかった。
そもそもなぜ右手側でピント合わせが出来ないのか。それはローライフレックスなどのフィルム巻き上げ方法にある。ローライコードではノブによりフィルムを巻き上げるが、フィルム巻き上げによりシャッターが自動チャージされない。これは多重露出や空送りの危険性があり、それを防止する機構を持つものでも一手間増えてしまうという欠点がある。そこでローライフレックスでは右手側のクランクの一操作でフィルム巻き上げとシャッターの準備が同時になされるようになったのだが、このクランクの移動範囲が広いため、ノブを付ける場所がないのだ。結果としてそのまま軸の反対側にノブが移動され、左手でピント合わせすることになった。
これを解決する方法にはいくつか考えられる。まず1つ目は、ローライコードのようにノブ巻き上げでありながらシャッターチャージも可能とする方法。実際、ベビーローライはノブ巻き上げでありながらシャッターのチャージも行われるが、残念ながらピントノブは左手側にある。また巻き上げノブの操作力は小さいとは言えない。つまりノブ式ではシャッターチャージをするのに操作力の点で若干問題がないとは言えない。

そこでコーワはどうしたかというと、巻き上げクランクとピント合わせのノブを写真のように同軸構造にしてしまった。しかもクランクの取り付けはがっちりしており、ローライやその他のコピーカメラのように格納側に折れる構造ではないためかえって信頼感がある。操作そのものはローライと同じで、ぐるっと1回転近く巻き上げたら元の位置に戻すが、元の位置に近づくと自動で緩いバネの力が働き、直立付近にノブが引き寄せられるようになっている。こればかりは操作してみないと分からないが、節度感と剛性感のある「二眼レフらしからぬ」感触となっている。もちろん同軸にピント合わせのノブがあるため、そのままカメラを持ち替えることなくピント合わせに移行できる。
シャッターボタンの位置も独特である。正面から見て向かって左下にシャッターボタンが備えられたカメラが多いところ、カロフレックスでは右下にそれがある。これは操作するまで、なじめるかどうか不安であったが、さわってみてすぐに合点がいった。カメラを左下からホールドしたとき、手は左側から回り込む形になるため、人差し指から小指までの4本はカメラを側方から持つことになる。シャッターボタンを前方から押し込むにはやや無理のある姿勢になるわけだ。ハッセルブラッドやブロニカのように前後に長いカメラではもう少しカメラが前に出るので無理がないが、二眼レフは幅と奥行きが小さいためこの点が問題になる。そこでベビーローライやローライフレックスTでは横向きにシャッターを押し込む構造になっている。
そこでカロフレックスでは、カメラをホールドした親指でシャッターを切るようにしたようだ。手の大きさにもよるが私の場合、拇指丘と4本の指でカメラをホールドするため確かに親指はあいている。実際、具合良くシャッターを切ることが出来、違和感はなかった。

つぎにこのカロフレックスの魅力としてレンズのプロミナーが挙げられる。著名なカメラ研究者(特に高島鎮雄氏)がよくこのカメラについて言及しているが、皆すばらしい写りを見せると手放しでの褒めようである。プロミナーは高級レンズのブランドとして定評ある名称であり、現在もスポッティングスコープの高級機にのみ与えられているほどである。
他にもコンデンサレンズを兼ねた焦点板や、その焦点板が前方に傾いていること、比較的設計の新しい二眼レフであることから迷光防止のバッフル板が入念に備えられていることなど特徴はいくつもある。ローライフレックスと同様にカメラの上部からシャッター速度と絞り値を視認できるが、それに加え、フィルムカウンターもカメラの真上から読み取れる位置に備えられているなど様々な工夫が盛り込まれている。写真のようにストラップ穴が直接側面のダイキャスト板に形作られているのも特徴的である。
このカメラはやはり海外オークションで入手した。なんと南アフリカから遠路はるばる帰国したのだ。純正の革ケースとレンズキャップが附属していたが、しかし出品者の記述と異なりシャッターに粘りがあった。出品者はその問題点について了解してくれ、一部返金してくれたが、この返金額ちょうどでシャッターの粘りを修理することが出来た。とある在阪カメラ修理店の高い技術により、前板の張り革を失うことなくオリジナルの状態を保ったまま、シャッターに回った油分を洗浄除去してくれたのである。

作例 (より大きな画像)