複雑すぎない実用計算尺 Faber-Castell 2/83

この計算尺は,別項で紹介した「究極の計算尺」 Faber-Castell 2/83N の前身にあたるモデルである.しかしこの,ただの N のあるなしで,実は全く異なった計算尺になっていると言ってもよいほどの違いがある.2/83N は 30もの尺度を持つのに対し,この 2/83 は 24尺度しかない.しかし実際にはこれで十分なのだ.2/83N はその贅沢さに驚かされるが,実用する上ではこの 2/83 ぐらいがちょうどいいのではないかと思う.

この 2/83 には,表側に K T1 T2 DF [ CF CIF CI C ] D S ST P の12尺度,裏側に LL03 LL03 LL01 W2 [W2' L C W1' ] W1 LL1 LL2 LL3 の12尺度がも付けられている.2/83N と比べると,表側では A [ B ] DI が,裏側では LL00 [ CI ] LL0 が少ない格好である.まず A/B であるが,これは実は裏面の W1/W1', W2/W2' と C 尺を組み合わせると平方根と2乗が計算できるので問題はない.また LL0 については,2/83N では D尺と共用になっていて非常に読みづらく,それなら最初から ex ≒ 1 + x の近似をそのまま使えば良いように思われる.その逆数である LL00 は,これも x≒0 のとき 1 / (1+x) ≒ 1 - x + x2 - x3 ・・ であることを用いれば 1 - x でほぼ問題ない程度に近似が出来る(LL00尺の 0.999, 0.998, 0.997 ・・・が,それぞれほぼ C/D尺の 1, 2, 3 の位置にほぼ一致していることが確認出来るだろう).あとは,2/83N では逆尺がやたらと豊富であるのが大きな違いである.確かに 2/83N, 62/83N では,表側で A/B 尺が,また裏側で C/D 尺を用いた計算ができるが,それらの尺度はそれぞれ間に CF/DF, W1/W1'尺を間に挟んでいるためカーソルで位置合わせをせねばならず,さほど便利とはいえない.たしかに,同じ計算が裏でも表でも出来る便利さはあるのだが・・

そしてなにより,Faber-Castell 2/83N は大きい.上の写真のように,幅も高さも二回りほど大きいように感じられる.2/83N は両端にかなりタップリとオーバーレンジが刻まれており,またカーソルの幅も大きいために,同じ10インチでありながらかなり幅ば大きくなっているのだ.また高さも大きく,2/83 はポケット計算尺の 62/83N とほぼ同じ高さだというのも面白い.

2/83 の付属品を示す.

この計算尺と 2/83N, 62/83N の共通の特徴として,裏面の W1/W2 尺により倍の長さの計算尺と同じ精度の計算ができることがあげられる.ただしこれらの尺度は他の尺度と混ぜて使うことが難しく,また目外れを防いで読み取ることが簡単ではない.結局のところ,汎用計算尺としては K, A/B, C/D, CF/DF, CI/DI, S, ST, T1/T2, P, LL1/2/3, LL01/02/03, L ぐらいの尺度が使いやすいように両面に配置されていればそれでよいように思われる.バランスの良いのは ARISTO 868/968, HEMMI No.260 あたりだろうか.この 2/83N はそれに W1/W2 による高精度計算のスパイスが入った,という感じである.