ノリタ66

2007年5月


以前から欲しかった、ノリタ66をようやく入手した。

このカメラ、あまり店頭で見かけることはない。かなり数の少ないカメラであるし、デザインに派手なところがないため、もしあったとしても目立たない。ぱっと見た感じではペンタックス67に似ているので、そこに埋没しやすいということもあるかもしれない。そもそもブランドとして確立されなかったと言うこともあるだろう。ブロニカやペンタックス、マミヤなど中判カメラを多数輩出した他の国産カメラメーカに比べ、当然マイナーと言うことになる。・・だったら、時折安価でショーケースの隅の方に転がっていてくれれば良さそうなものだけれど、それがなかなかそうはいかない。いくつかの理由により、知る人ぞ知る、・・といった感じのマイナーな名機になってしまっているからかもしれない。もし店頭で見かけたとしても、かなりの値札を下げるようになってしまっているのだ。


その理由として挙げられるのは、きっとこのレンズだろう。ノリタール 80mm F2 というレンズが装着されているが、この F2 という明るさのレンズは中判カメラではほとんど見られない。明るいレンズとして有名なものはマミヤ645 の Sekor C 80mm F1.9 だが、これは6x4.5判のカメラになってしまう。6x6以上ではハッセルブラッドの Planar 110mm F2 があるが、焦点距離が長い。他には旧ブロニカの Zenzanon 80mm F2.4 やペンタックス67の 105mm F2.4 になる。よってこのレンズは貴重な存在だが、その画質が優れていることも一部では有名で、当時の雑誌のテスト記事でもなかなかに高い評価を得ている。そうなると一度は使ってみたい。

そういうわけで、このカメラは海外オークションで入手した。もともと国内販売に先立ち輸出されていたこともあり、国内よりも海外での販売数の方が多かったようだ。実際、ebay で見ていると数は多くないものの、たいてい1台は出品されているような状況である。その中で外観としてはそこそこだが、記述ではちゃんと動いているような様子の1台を落札した。なお、出品者のIDはcamera$というものだった。説明には "Everything is functioning and in working order, clean inside and out" とあった。

しかし届いてみてびっくり。あちこち不具合だらけだった。まず本体だが、裏蓋を開けてもフィルムカウンターが復帰しない。シャッターは、1秒と 1/2 秒が故障しており、シャッターが走行しないだけでなくこの速度に設定していると巻き上げも出来ない。ファインダスクリーンはギッタギタに傷が入っており、・・・というよりも本来フレネルレンズがあった部分を削り取ったようになっていて、画面が常に曇って見える。修理中に分かったことだがスクリーンそのものも上下逆に入れ直されていたし、その上のコンデンサレンズも隅がわずかに欠けていた。フィルムスプールの軸を抜くノブ(35mmカメラだと巻き戻しノブが付くところ)は一度折れたらしく、接着剤で止められていた。次にレンズだが、こちらは内部で部品が外れており、絞りが動作しない。そんなわけで、とても撮影できるような状態ではなかった。

さてどうするか。ebay の規定では返品時の往復送料は落札者負担。重さのあるカメラなので、国際郵便の送料を払った上でなにも手元に残らないのも癪だし、出品者がそのような状況のところにモノだけまず返品するのも心配だ。きっと出品者はこのような商品の状態を知って出品しているだろうから、返品の上全額返金が良いか、それともどうせ修理が必要なモノなので、一部返金が希望かどうかを聞くと案の定というか、一部返金が良いという。しかしこの出品者、返金額を値切りに値切り、結局75ドルしか取り返せなかった。というわけで、この出品者には要注意である。

しかし幸いなことにレンズは非常にクリアだし、カメラ本体は一部の速度を除けばシャッターはそこそこうまく走行している。プリズムはへこんでいるが中身に問題はないし、ミラーも綺麗ということで、修理することにした。まずスクリーンは、Pentax 67-II のマットスクリーンの中古品を入手し、カットして装着。ノリタ66は視野率がかなり低く、その分必要なスクリーンの大きさも小さい。このことを実感する作業ではあったが、ともかく最新のスクリーンを得て非常にクリアなファインダ像が得られるようになった。巻き戻しノブは、折れた軸に穴明け・ネジ切りをし、ネジを埋め込んで修理。レンズはバラバラにして組み直した(幸い、前玉ブロックと後玉ブロックはバラス必要がなかった)。フィルムカウンター部分も分解修理した。本来の動作には戻らなかったが、フィルムカウンターを220モードにしておけば使用できるようになった。

そうしてみるとやはりレンズの明るさからか、ファインダ像の明るさは際だって感じられる。上の写真は特にファインダ画面内を合成したわけではないが、それでもこのぐらいに見えるのだから、プリズムを載せて覗いたときの明るさも想像できると思う。

そうしてやっと試写してみたが、やはり画像のシャープさは評判に違わぬものだった。作例は開放のF2で撮影したものなので、非常に被写界深度が浅いものになっているが、ピントが合った部分は十二分にシャープだ。拡大画像では布地の質感などからもそれが分かると思う。また、ぼけが前後ともかなり綺麗で、柔らかくぼけるのも良い。そのため立体感の感じられる描写になっている。

カメラ本体については、ミラーのショックの小ささが特筆に値する。全く感じないというと嘘になるが、少なくとも問題になるような大きなショックではない。構え方や操作方法などが35mm一眼レフとほぼ同じであることも相まって、軽快に撮影することが出来た。巻き上げはダブルストロークタイプだが、その分必要な力は小さい。分割巻き上げも可能であるため、小刻みに巻き上げるような操作方法で気持ちよくコマを進めることが出来る。

欠点としてはファインダ視野率が低いこと(85%程度とのこと)が挙げられるが、その分プリズムが小振りで軽量化されているため文句は言えない。またF2の明るさがあるといっても、ほとんどのケースでこの被写界深度は浅すぎると言うことになるだろうけれど、それを生かしたやや暗いシーンでの撮影には威力を発揮しそうだ。

リンク

TOPCONCLUB - Norita Club、本体・アクセサリ・各レンズの紹介。