AF Zoom Nikkor 28-80mm F3.3-5.6G


シルバーとブラックの2つのバリエーションがあった。
右のブラックはGタイプに対応していないカメラで使用できるよう、
Ai連動レバーを動かすための突起を取り付ける改造を施している。

AF Zoom Nikkor 28-80mm F3.3-5.6G は2001年3月10日に発売された、初めての「Gタイプ」ニッコールレンズである。この日にブラックモデルがまず発売となり、その2週間後の3月24日にはニコンUの発売に合わせてシルバーモデルが追加された。定価は25,000円(税抜)と極めて安価で、レンズ構成はズームレンズとしてはもちろん、多くの単焦点レンズとくらべても少ない6群6枚である。マウントはプラスティック製で、フォーカスリングに距離目盛りもなく、ピント合わせによってフィルタ枠が回転する。このように、どこから見ても低価格化を再優先に設計されたかのようなこのレンズであるが、実は驚くべき高性能を発揮するレンズなのだ。


当時、このレンズは優秀な小型カメラ、ニコンU等に組み合わせて売られていた。
シルバー鏡筒のモデルはUの色目によく合う。

なおこの写真は、ブラック鏡筒の同レンズで撮影した。
全体にシャープかつ周辺部まで均一で、ボケも自然な上、色収差による色づきも目立たない。
クリックするとD800Eで撮影した元画像が表示される。

世の中には、中央部が極めて先鋭なレンズや画質の均一性が持ち味のレンズ、開放絞りでは甘くても少し絞ると見違えるように画質が向上するレンズなど、様々な個性を持つレンズがある。そのため私は、レンズを新しく購入すると、手持ちのレンズと同一条件で撮り比べてその特性を把握するようにしている(例えばこちら)。これこそは、と思って購入したレンズが思ったほどの性能でなかったことも少なくない。その中で、ただの一度も期待したこともないこのレンズは比較のたびに優秀な性能を見せつけ、それなりの投資といくばくかの期待をもって購入した新入りのレンズ(と私の心)を打ちのめしてきた。

正直に言うと、やはりカメラやレンズには所有し使用することそのものにも喜びがあると思う。そしてそれには、レンズの外観や操作の質感が多少なりとも関わってくる。その点で、このレンズは全く媚びてくるところがない。カメラを持ち出すときに、ある1本のレンズを選ばねばならないとき、どうしても選択肢から外したくなる、そういう位置にあるかわいそうなレンズである。インターネットを検索してみても、多くのユーザが「安かろう悪かろう」というような判断をしており、その真価を見抜いている人は僅かなようだ。


D800E (RRSのLプレート装着)に取り付けた例。ブラックモデルのほうが似合うが、
シルバーモデルのほうが多く出荷されているようだ。

最近はすっかりレンズの主役の座は単焦点からズームに移った。しかし超望遠やマクロレンズ、大口径レンズなどの例を見るまでもなく、極限の性能を求めるにはやはり単焦点である。その点では、ズームレンズは「必要十分にそこそこ写れば良い」レンズであるということも出来、むやみやたらと明るいレンズである必要もない。正直に言って、フルサイズフォーマットのカメラであれば、このレンズ1本でそのような用途はほとんど満たせるのではないかと思う。確かに最新の 24-70mm F2.8 レンズに比べると、1〜2段暗くて手ぶれ補正もなく、ワイド側も28mm止まりだが、それでも望遠側は10mmも長いし、なんといってもはるかに小型軽量である。最新のコーティングが使われていなくても、少ない構成枚数ゆえのヌケの良さも持つ。より高価で高級な標準ズームを既に所有している人でも、ちょっとした飲み代ぐらいで買えるこのレンズを買っておいて損はない・・と言いたいところだが、手持ちのレンズとこのレンズの性能比較はしないほうが身のため・・かもしれない。

もっとも、このレンズの優秀さを既に見抜いていた先人も多い。例えば Ken Rockwell 氏は、このレンズのレビューにおいてその性能を高く評価し、またこのレンズをNikon's 10 Best Lensesに挙げている。またニコマートMLでもその意外な優秀さは時折指摘されていた。しかしそのチープな外観と触感、仕様から、そうはいってもあまり顧みられていないレンズであるのには違いない。2001年当時の世間の反応は、まず第一に絞りリングが無くなったことの衝撃が大きく、それだけで選択肢にも挙がらない、という風情であった。またその後、DXフォーマットのデジタル一眼レフが急速に普及したこと、同時にボディ内にAFモーターを持たないボディが増えたことで、さらにこのレンズを手に取る人が少なくなったと思われる。しかし今やGタイプは当たり前となり、レンズ内にAFモータを持つフルサイズ機では実使用に一切問題ない。多くの本数が発売されたことも手伝って非常に安価で豊富に見つけることができる。私も1本目は発売からさほど経たない2003年に5800円で購入しており、もう1本は最近、ニコンUとセットでなんと3000円で入手した。

マクロ撮影時のパフォーマンス


望遠端・最短撮影距離(つまり最大倍率)での作例。
仕様上では最大倍率が 1/3.5 倍とされているが、実際にはもう少し寄れる。

このレンズは後のレンズテスト結果で示すように遠景の描写にも優れているが、マクロ域での解像感と自然さにも美点がある。上の写真は最も倍率が高くなる望遠端・最短撮影距離で1段絞って撮影した時のものである(小さな花だが、その大きさがわかりにくいので、右上に手を入れた写真を入れた)。マクロ域ではボケも穏やかで、色収差が目立つこともなく、品位の高い写りが得られる。


上の画像からの等倍切り抜き。中央部分は十二分に高解像度で、
花びらと背景のふちに不自然なエッジが出ることもなどもなく、高品位な写りである。

中央はD800Eにも十分な解像度を持ち、周辺部も大きく崩れることなく自然な画質を保つ。最大倍率は約0.3倍である。

上の作例も同じく望遠端・F8での撮影例である。開放F5.6でも解像感はあるが、ハロにより高輝度部では若干コントラストが落ちることがあり、1段絞るとこのように金属反射が多く見られる対象でもすっきりとした像を得ることができる。

レンズテスト

ここではD800Eで撮影したフルサイズ画像を掲載する。RAWを Photoshop 6.0 で現像したが、その際に倍率色収差は除去する設定とし、その他は細かな露出度の違いを調整した程度である(ニコンデジタルカメラのJPEG画像では、無条件かつ自動的に倍率色収差が除去される)。今回は相対的なテストは行わなかったが、他のレンズとの比較は、従来実施したこちらなどを参照いただきたい

28mm時

28mm F3.3開放
28mm F5.6
28mm F8

開放から優れた画質である。開放から中心部は十分な解像度を持つ。周辺へ向かうに従い徐々に画質は下がるが、その定価の度合は小さく、付近等な流れもない自然さの高い描写である。1段絞ると、中央部でわずかに見られたコントラスト低下は解消し、両端の画質も改善しほぼ均質な画質となる。F5.6とF8では画質に大きな変化はない。総合すると、F3.3開放から十分に使用可能な画質で、F5.6に絞ればほぼ万全といえる。

50mm時

50mm F4.5開放
50mm F5.6
50mm F8

開放から十分な解像度を持つが、若干ハロがあり、高輝度部(空)に近い部分で青系のにじみが見られるが、2/3段絞ったF5.6ではそれも解消し、アンテナのような細い物体でも色づきのない高いコントラストの像が得られる。画質の均質性は極めて高い。開放とF5.6での差異を見出すことが出来る部分はわずかであり、F8とF5.6の差を指摘するのはかなり難しい。総合すると、開放から十分な画質であるが、輝度差の大きいシーンでは 2/3段絞るとコントラスト低下を防ぐことができる。

80mm時

80mm F5.6開放
80mm F8

やはり開放絞りから中央部は高い解像度を持つが、F8に絞ることでより万全なコントラストを得ることができる。それに対して周辺部はわずかに甘くなるため、風景のような無限遠の(つまり、光学的に平坦な)被写体を隅々までシャープに撮影するには1段絞ると良い。合焦部以外がぼける立体的な対象では開放でも十分な画質であるが、やはり1段絞ると万全なコントラストが得られる。総合すると、やはり開放から十分に使用でき、周囲まで均質な画質や、高コントラスト部分でのハロを除去するためには1段絞るとよい。

以上見てきたように、このレンズは開放から非常に整った画質を発揮し、特に中央部の解像度が開放から十分であること、周辺部でも目立った流れなどなく、自然な画質低下はあるもののその度合が小さいこと。またどの焦点距離域でも開放絞りから1段絞るとコントラストや周辺画質が改善し、D800Eの画素数でも十分満足の行く画質が得られると言える。。

ぼけ味

80mm F5.6開放
80mm F8

広角側ではボケ量が小さいためボケ味が目立つことは少ない。また望遠端でもマクロの作例のように近接時はスムーズなボケ味で自然である。中距離でボケ量が小さい時は若干の2線ボケ傾向を示す。上の作例(撮影距離:約4m)では、どちらの絞り値でもその傾向が見て取れる。写真からは、開放F5.6とF8では合焦部の画質に大きな違いがないこともわかる。背景との分離がよく、立体感のある描写が得られる。