初期フォーカルプレーンハッセルブラッドに似た外観とメカニズムを持つソ連/ウクライナ製6x6一眼レフ。冗談で「ハッセルブラッドスキー」と言われる。
安価で優秀な画質が得られるためコアなファンが多い。
まず、初期に製作されたSalut「サリュート」を紹介する。レリーズで絞り込まれる半自動絞りを装備しハッセルブラッド1000Fよりも一歩進化している。後に完全自動絞りを備えたサリュートCを経てキエフ88シリーズに進化した。
サリュート
Salyutと英字表記されるウクライナ製ハッセルブラッド1600F/1000Fのコピー。
美点:高精度、高品質、優れた操作感触。優れたレンズ群。
欠点:絶望的なフィルムマガジン。古風なファインダーフードとややあわせにくいスクリーン。シンクロ1/25のシャッター。セミオートまたはプリセット絞りレンズ。現代の超尖鋭なレンズを利用することは困難。
洒落で使う向きもあると思うが、撮影結果は良好。
ハッセルブラッド1600F発表・発売は1948年、1000Fは1952年である。
サリュートが現れたのは1957年。発売当初の価格は400ルーブルで、ソビエト一般市民の給料6か月分であった。最初のモデルは1/1500シャッターとセルフタイマー、M/X接点切替を備え、手動開放ながらセミ自動絞りを装備してスペック上は1600Fを上回っていた。セルフタイマーなし、1/1500つきモデルがそれに続き、3つ目のモデルはセルフタイマーなし、シャッター最高速1/1000とハッセルブラッドを追うような変遷を示している。ただし低速はハッセルブラッドが1秒まであるのに対し、サリュートはいずれも1/2秒となっている。
ソビエト製カメラのシリアルナンバー頭2桁は製造年をあらわしていると言われており、それに従うと私の1/1500セルフ無しは59年製、1/1000は71年製ということになる。販売は革製セットケースに、シリアルが一致した2個の120-6x6マガジンとフィルター、ケーブルレリーズ、インダスター80mmf2.8標準レンズが同梱されて行われた。
操作はハッセルブラッド1600Fと共通し、注意点も同様である。
ハッセルブラッドの作りは大変精度が高いもので、操作感触は素晴らしい。しかしそれでも1600Fと1000Fとの間には操作感触の差が存在する。どれだけマイスターの手を煩わせたかの差が出るのだろうと想像している。サリュートにもそれが言えると思う。59年製セカンドバージョン1/1500モデルの滑らかな感触と優雅な作動音は1600Fに迫り、1000Fをあるいは凌駕しているとさえ思える。
71年製のサードバージョン1/1000モデルはそれに比べると悲観的というほどではないが、やや引っかかりや不快な摩擦感が残っており、仕上げが落ちていることを窺わせる。ただし作動は非常に確実で、後年のキエフ88が、高速シャッターの走行ムラ、スリットムラがない個体は貴重なのに対し、サリュートの高速シャッターの安定感は一級のものである。調子の良いサリュートは、調子の良い1600F/1000Fに匹敵する。私の1000Fがどうしてもシャッター走行不良を是正出来ないのに比べると素晴らしい限りで、もし1600Fが再起不能になったらサリュートを使おうとさえ考える。
画像:左Salyutセカンドバージョン59年製、1/1500、セルフ無し、Induster80/2.8(71年製),Kiev-88後期マガジン
右Salyutサードバージョン71年製、1/1000、Vega90/2.8(79年製)(Salyut-C用のため自動絞連動せず普通絞で使用)
サリュートの純正レンズはMir-3 65mmf3.5、Industar-29 80mmf2.8、Tair-33 300mmf4.5の3本しか知らない。このうちサリュートのセミオート絞り機構に対応しているのは前2者で、Tair-33はプリセット絞りである。
Mir-3は当時価格が240ルーブルであり、基本セット(ボディ、80/2.8、マガジン2個)400ルーブルと比べても非常に高価で生産数は極めて少ないと言われているが、日本ではそれほど珍品とは言えないし、価格も求めやすい。Mir-3は初期レトロフォーカスに典型的なラッパ型をしている。 基本レンズにビオメタールを置き、その前部に大きな凹レンズを配置しており、当時アンジェニュー等他社は基本レンズにテッサーやトリプレットを置いていたのと較べて贅沢な構成だが、これは東独Frektogon65mmf2.8と同じだ。私はFrektogonの経験がなく比較できないが、Mir-3の実写性能は開放から周辺まで均一な良像が得られ実直な印象を受ける。1000F用ディスタゴン60mmの開放値がf5,6にとどまるのに比べ、当時としては驚異的に明るい。
f3.5-22, 最短撮影距離0.8m,フィルター径86mm
標準Industar-29はテッサーであり、35mmカメラ用Industarと同様に精度は良好で信頼できる。1000F用Tessarと同じように開放では軟調だがf5,6より絞れば尖鋭である。ヘリコイドリングはレンズ先端部にあり、アタッチメント径は58mmだが、30mmくらいのフィルターアダプターが前からねじ込め、フィルターを前玉付近に位置させるようになっている。私のは欠品なので詳細はわからないが、奥まった位置に前玉があるのでフィルターをしていてもフードが不要になる高価はあるだろう。
f2.8-22,最短撮影距離0.9m,フィルター径58mm
Tair-33 300mmf4.5は前方に重心があり非常に重いレンズ。簡単な構成のようだが画質は良好で、一度DDRのSonnar300mmと比べてみたいと思っている。
画像:Mir-3 65mmf3.5, サリュート用半自動絞りつき、75年製/全面黒なのでサードバージョンまたはSalyut-S時代と思う。
プリセット絞りの望遠。
構成は私は知らないが長焦点を長い鏡胴に付けているような印象。エレメントは鏡胴先端部に集中している。
大変重量があるレンズ。
完全逆光だがなかなか尖鋭な画像を得られた。高速でもスリットムラは見えない。
Salyut 1500, Tair-33 300/4.5, 開放, 1/1000, 160NS, 手持ち
初期88はサリュートCの銘板と意匠が変わった+標準レンズが新世代のガウス型Volna80/2.8(名称違いArsat)が装備された程度と認識していますが、ソ連崩壊前後も改良が加えられ、メタルカーテンシャッターが布幕になったり、レンズマウントがペンタコンシックスマウントのKiev60と共通化されたりさまざまな進化をしています。
私は初期型を一時期所有しましたが手放し、後にP6マウント、布幕シャッター、クランク巻き上げに改良されたモデル(メーカー不明)を入手しました。スピゴットのARAXやHartbleiとは違い回転バヨネットで固定します。
また装着されたマガジンは裏蓋が全開するBronicaECやSL66のような機構で大変操作性が改善されているだけでなく、フィルム給送の安定性もそれまでより改善されており、高く評価できます。
P6マウントで安定したフィルム給送をと考えて入手したものの、KievスクリューマウントーKiev60マウント変換アダプターは使えないし、入手当初のマガジンはフィルム面が不安定で使えるまで長い間かかりました。(結局単に前オーナーが落下させたかアパーチャー付近が変形していただけ)
多くの人が絶賛する魚眼レンズ、Arsat30/3.5(名称違いZodiac)もそうで、キエフ88スクリューを2本、キエフ60P6マウント1本の3本を試しましたがどれも素晴らしい写りでした。
他にお勧めできるレンズは、小型軽量中望遠、Vega120mmf2.8です。
Vega名ですので、構成はBiometarです。
明らかなライバルは東独Pentacon6用Biometar120/2.8で、定評あるレンズです。
Vega120の全長はB120の半分ほどに小型化されており、標準レンズとかわりません。
性能はきわめて端正で、少なくともB120には劣らないと思います。
マクロ画像を示しますが、同倍率のS-Planar120/4にも負けないと思いました。
Kiev88, Vega120/2.8, f4、中間リング
PENTACON sixの予備機として探していたところ、たまたまYAHOOのオークションに出ていた物を落札しました。
前のオーナーは以前KIEV JAPANを運営されていたケビンさんです。
KIEV JAPANのHPのトップを飾っていた個体だそうです。
状態のいい物は少ないとか聞きますが、私の場合は最初の個体ですこぶる快調です。
内部構造で改良化されているらしいですが、外からうかがい知る事はできませんので
外観でわかる点は以下の通り。
・布幕シャッター
・KIEV 60マウント(スピゴットマウント)
・レリーズボタン位置変更
・クランク付き巻き上げノブ
・新型フィルムバック
・スポット付きTTLプリズムファインダー
・シャッター
動作音は旧型と変わらず。
シャッター幕が動作した後でも内部で何かグルグル回転している?
・マント
KIEV60マウントになった事でレンズの選択肢は増えました。
P6・EXAKTA 66・アダプター経由で旧KIEV 88スクリューマウント ハッセル1600/1000Fマウント
サリュートの半自動絞りのレンズは使えななかった?
元のベースとなった88のボディでは60の様なスピゴットリングでは干渉を起こす為でしょうか
リング部分はボディ側に食い込み、操作用のつまみが一か所飛び出しています。
操作性に関しては特に問題なし。
・レリーズボタン
マウントの変更の影響なのか、ボディー側面にせり出した配置となりました。
これは少々使い勝手がよくありませんが、ある程度使えば慣れてきます。
・巻き上げノブ
折角クランクが付いていますが、巻き上げは滑らかではないので使い道は疑問が残ります。
・フィルムバック
NT型フィルムバック 使用方法はハッセルの物とほぼ同じ
背面に引き蓋を収納するポケットがありますが、素直に入らないのは困りまのです。
更に困るのは、カメラに装着した状態で引き蓋を引き抜くのはスムーズですが
入れるときはなかなか入らない事です。
これ本当に入るの?と思わずにはいられません。
・スポット付きTTL45°プリズムファインダー
これは中々使いやすいく、デザインも洒落ています。
何よりも明るく見やすい為、ブロニカ用に改造品も作りました。
ちなみに隣の黒い個体は冗談で作った銘板を張り付けたフェイクキエフ KIEV 500CMです。
カメラ屋の店員さんでもKIEVである事に全くの疑いを持ちませんでした。
その昔、デザインの盗用でブロニカが訴えられたのは何だったのでしょう?
KIEV 88CMではよくある事らしいですが、ウェストレベファインダーのルーペの視度が合わない事です。
ハッセルの物を流用するのも一つの手段ですが、私の場合は派手な張皮のも問題で交換がためらわれます。
そんな時にKIEV使いの知り合いから有用な情報を教えてもらいました。
ルーペを少し押し下げた状態で止めればいいのです。
丁度良い所で止まる様にウレタン製のスポンジゴム(両面テープ付き)の小片を張り付けてました。
非常に簡単な方法で、お勧めです。
皆さん銀塩機から撤退する中で、飽きもせず使い続けているとだんだんと
周囲から押し寄せて来て、売れないカメラのサルガッソーとなっています。
登場はKIEV 88CMが出る前なのでしょうか?
スクリューマウントの88をベースに改良された個体との触れ込みでした。
少なくとも私の手元の個体は一応動いて支障なく写真を撮る事はができますが
操作性は何ともギクシャクしていて件の赤い88CMに大きく劣ります。
同時に使うと、KIEV 88CMが何とも頼りがいがある名機に錯覚出来る程です。
最大の違いはレンズマウントです。
88CMはスピゴットマウントですが、HARTBLEI 1006Mでは、レンズ側を回転させるバヨネット式になっています。
もとになった88ボディ寸法とフランジバック寸法の絡みでバヨネットリングが干渉して使えなかったからでしょう。
ただし、これは後の88CMの方が優れています。
延々と続いてきたKIEVファミリーの中では過渡期のカメラとの位置づけでしょう。
ちゃんと動くならそれで満足ですが、これらは1個体だけで判断できないのが難しいいところです。
ソビエトカメラの個体差は、後年の修理が入っているのも含め結構大きい印象で、日頃から快適に使いたい欲求が大きいです。好調の個体はとても羨ましいです。
ご提示のHartbleiを見ると、私の回転ロックP6マウント布幕シャッターのKiv88はHartblei由来の可能性がありますね。
クランク廻りもそっくりです。ご指摘同様にクランク操作感はよくありませんのでノブとして使うことが多いです。
私の個体は側面のレリーズホールはありません。クランクと反対側の側面中央にシンクロ接点、側面上方にホットシューとその直下にレンズロック解除ボタンという構成です。
回転ロックはガタが大きいけど実用的には問題を感じていません。ただしキエフスクリューをP6に変換するアダプターは装着出来ず、スピゴットの88CMが欲しいところです。
私の変換アダプタは、一応サリュートセミ自動絞りレンズも引っかかりつつ装着でき、スピゴットのマミヤ645アダプターなら装着可能ですから多分88CMでも行けると想像しています。
ハッセル1000FレンズもマミヤM645アダプタなら付けられますが、88ボディでどうなるかは検証できておらず、謎です。
マガジンは基本的にハッセルブラッドとの互換性はないと思っていますが、私のP6マウントKiev88はハッセルのA12,A24を使うことができ、特に220が使えるようになり有り難い。
ウクライナ製220マガジンはあるようですが、NTではないようで手を出しませんでした。
ケヴィン様にはNTマガジン5個を試させて頂き、好調な2個を選別できて深く感謝しています。今サリュートで撮影出来るのはケヴィン様のお陰です。
深いお話をありがとうございます。
フェイクキエフ、笑いました。逆も可能なんですね...