シフト中判カメラ
中判および大判カメラの中には、フィルム平面とレンズ焦点面との平行性を崩す(ティルト/スイング)、または光軸と画面中心との関係をずらせる(スライド)を総称しディスプレースメント、広義のアオリ機能をもつカメラがある。
ディスプレースメントは被写体の形状を整える効果があり、古典的なプレートカメラでは、レンズボードを平行移動できる機能は常識的なものであった。その後、大判カメラは構造上ごく薄い被写界深度を絞り込みでカバー困難のためティルト機能は有効で、また主要な使用者である職業写真家が必要としたため、ディスプレースメント機能を発展させていった。
近代的な35mmカメラでは、交換レンズの形で供給されカメラ自身にこの機能をもたせたものはほとんど見受けられないが、中判は大判並みのアオリ機能を持ちながらより携帯可能な発展を遂げ、ひじょうに個性的なカメラが登場した。その中の幾つかを紹介する。
プラウベル69W プロシフト
日本のドイが企画した、ドイツプラウベルブランドの中判カメラ、マキナシリーズに続いて販売された超広角シフトカメラ。
ジャックテイト ハンドメイドシフトカメラ
現在機械によるドローイングを手がけておられる元フォトグラファーのJack Tait氏がかつて手がけた半量産半ハンドメイドの超広角シフトカメラ。
ホースマン SW69
駒村商会が生産した超広角システムカメラ。上下左右のスライドが可能。6x12cmの兄弟機もある。現在はデジタル対応し現役ながらラインは縮小。
アルパS120
スイスのCapaul & Weber社製中判システムカメラ。光軸固定機12TCと、スライド1方向12FTC、2方向12XYのモデルを用意している。
シルベストリ
イタリア製。1980年代にプリミティブなシフト可能広角カメラを発売、改良を重ね現在も数機種のラインアップがある。
比較表を作ってみた。
Plaubel SW69 Jack Tait HorsemanSW69 Alpa12XY Sivestli T30
重量(Finder+47+69付) 1550g 2000g 1850g 不明 不明
フィルムバック 6x9固定 Graflock Graflock Graflock Graflock
120-220切替 Revolving Revolving
ファインダー形式 外付光学+ワイヤー 内蔵光学 外付光学+焦点板 外付光学 焦点板
シフト連動 シフト連動 シフト用マスク +焦点板 純正光学ファインダーはない?)
焦点板つかない 焦点板+縦横手動切替
レンズ MCSA47/5.6固定 MCSA47/5.6 専用ボード交換 専用ボード交換 専用バヨネット
SA65/8交換 (24)35-135mm 35-180mm 35-180mm
スライド量 X13mm, Y±17mm X±20mm, X±25mm, Y+30mm
Y15mm Y±17mm Y+45-25mm (S4は+40mm)
特徴 手持ち最強 三脚最強 高精度 豊富な付属品 優美なデザイン
マミヤプレス派生 アイディアの塊 高価
画像はジャックテイトのスーパーワイド69広角シフトカメラ


・マミヤ 645+Sekor C 50mm F4.0 Shift
・ブロニカ ETR+ゼンザノンEスーパーアンギュロンPCS 55mmF4.5
・ローライ ローライフレックスSL66 シリーズ
・ハッセルブラッド フレックスボディー
・ペンタコンSix+PCS-Arsat 55mm F4.5
・KIEV KIEV88CM+HARTBLEI Super-Rotator 45mm F3.5
・マミヤ RZ67+シフト・ティルトアダプター
・トプコン HORSEMAN 970
・マミヤ プレス初代とスーパー23
等々、カタログ上は可能なものが意外に多いです。
その実、中版カメラのアオリは実際は無限遠が出しにくかったり、ケラレ等の問題があったりして、制約の大きなカメラも多いのが実情です。
個人的には専用レンズがあるタイプが一番楽だと思っています。


追加すると,ペンタックス67用シフト75mmf4.5があります。
ハッセルブラッドF用には、PCテレコンバーター1.4xがあります。
ブロニカETRに供給されたPCSスーパーアンギュロン55/4.5は、後にローライ6008用が追加されました。
ローライSL66用のシフトレンズは、PCSローライゴン75mmf4.5です。ティルトアダプターを併用、ボディとアダプターを互いに反対方向にティルトすることでシフト代用になります。
ウクライナのPCSシリーズの中で専用設計は55mmf4.5のみで、45mm、65mm、80mmは従来66用レンズそのままですから、イメージサークルをファインダーでよく確認しながら、よく絞り込んで使うべきでしょう。
Arsat55/4.5は画質良好です。ティルトはできず水平1方向シフトを、レンズ基部を回転させて全ての方向にスライドする方式です。これは35mm用PCニッコールやクルタゴンと同じです。但しシフトすると漏光する個体があるので注意してください。
また、フジGX680も素晴らしいアオリカメラですね。
これら中判一眼レフ用アオリレンズは、35mmカメラ換算で35mm前後の画角であることが共通で、引きがない建築物を撮影するよりも、大判カメラで行っていた商品撮影でパースを修正する目的で中判を使う用途が主体ではなかったかと想像しています。
35mmフィルムカメラでは、35mmが主流でしたが、ペンタックス、ニッコールとシュナイダーが28mm、ズイコーとEOSが24mmを供給しましたが、さらに広角はデジタル時代まで存在しませんでした。
シフト中判カメラは6x9、6x12で35mm換算20〜15mmに及ぶ広画角でもシフトができるのが特徴で、一眼レフには真似が出来ません。
目的は大判カメラとかぶってきます。
恐らく中判シフトカメラは大変限られた条件を重視する人にしか受け入れられないでしょう。
仕事なら大判で十分です。
本来大判なので意図的に入れませんでしたがカンボワイドもシフト可能で、ロールホルダーと組めば中判ではありますね。
私は随分愛用しました。建築物を含む旅行風景、個人の撮影旅行ではないので三脚を立てる間はなく速写性と多数枚撮影が必要、でも高画質をある程度要求すると、シフト中判広角カメラに行き着くのです。
ホースマンSW69, 35mmf4.5


デジタルを見据えた超小型蛇腹カメラでしたね。大変憧れました。
その延長に、専用マウントにしたアークボディもありました。
ただし、このクラスの中判広角をピントグラスで焦点合わせするのは至難の業ということを、グラフレックスSLや、69ビューカメラで実感していましたので,ヘリコイド目測のほうが却って実用的だと判断し、ハッセルのアオリシステムは積極的購入対象にはしませんでした。
これも書き忘れましたが、一眼レフでも25mm相当までシフト可能なGX680は最高です。ただあれを抱えて旅行するのは私には無理です。


ブロニカS2用のベローズアタッチメントもアオリが効いて、かつインフが出ると聞いていましたが、タイプと機種によってはインフが出ないこともあるそうです。


D, S用ベローズは、他社と同じくかなり近接からしか使えません。
またS2用でもコンパクトベローズも、あと少しで無限は合いません。
EC以後のベローズ2型は,残念ながら少しフランジバックが長くなって無限遠がでなくなってしまいました(ですよね?)が,かなり遠くにも合います(後で確認します)
さてS2ベローズ2型は、蛇腹を一番縮めた状態で無限遠が出ますから、アオリはできません。
75mmで1mに合うくらいに蛇腹を伸ばすと、ティルト、シフトが少し出来るようになります。
接写でパースを整えるためのアオリ機構です。
前板限定ながら、フォール以外の全ムーブメントができます。
無限でもアオリがしたくて、フランジバックが長い短焦点を探し、RB67用50mmはどうかと思いましたが太すぎてマウント困難でした。
それよりもブロニカ用レンズを利用して、ベローズ前板を外し、レンズをくわえ込むような前板をベニヤで作って、袋蛇腹であおれるように加工したことがあります。
結局イメージサークルがそれほど広くないので、あまり実用できずにシフト中判カメラになだれこんでいったのですが。
のちほどベローズの記事を作りますね。


しかし残念ながらこれらの時代にはまだ超広角レンズ技術が十分発達しておらず,いずれも標準画角ですのであまり強いシフト効果は期待できません(使ってみると意外と構図を整えるのに役に立つのは確かですが).しかし様々な高性能超広角レンズが現れた頃には,この種のカメラはスプリングカメラに変わってしまい,シフトが出来ない構造になってしまったのは惜しいところです.また,もう少し後の時代になると,ほとんどのカメラは畳めなくなってしまいました(ビオゴンタイプの登場によりレンズ全長が長くなり,畳むメリットがなくなってしまったということはありますが).
もしトポゴンとかアンギュロンが固定された小型・軽量の広角専用中判カメラが登場していたら,(特に距離計に連動したりシフト機構がついていたりしたら)きっと今でも珍重されているだろうになあ,と思います.もっとも,自作することはできるだろうと思います.一時期,オートグラフィック・スペシャルのレンズをアンギュロンあたりに変えた中版ワイド広角カメラを作ろうとした時がありましたが,入手したカメラがいずれもそれなりに動いてしまうので壊してしまうのが憚られ,そのままになっていますが・・.画角そのものは広がっていませんが,こちら http://shiura.com/camera/avus/ に挙げているように後代の包括角度の大きいレンズにするのも有効かとは思います.
コダック オートグラフィック スペシャルのページにも少し書きましたが,距離計や一眼レフの技術はロールフィルムの登場・普及やフィルム感度の向上と密接に関連しています.昔はカメラは三脚に載せ,すりガラスでじっくりと構図とピントを決めればよかったのですが,ロールフィルムにより速写性が上がり,また感度向上で手持ち撮影が可能になることでそれに対応したフレーミングとピント合わせが求められるようになり,その代わりにシフト撮影機能が省かれるようになってしまいました.結果的に,後のカメラでもシフトをするなら目測か,ロールフィルムホルダを外してすりガラスをどうぞ.距離計使うならシフトは諦めてください,みたいなことになってしまったのは残念な気がしています.理想のカメラの1つは,ファインダ内に水準器がついてシフトの構図も確認できる距離計連動式の小型・超広角中判カメラなのですが,存在しないのではないでしょうか.
まあ広角なのでほとんどのケースでは目測で足り,特にニーズが高い建築写真では距離計などいらないのも確かですが,なにかミッシングピースがあるような気がしてなりません.


日本のドイが企画した、ドイツプラウベルブランドの中判カメラ、マキナシリーズに続いて販売された超広角シフトカメラ。
重量1550g
マミヤプレス6x9ロールホルダー3型にシフトフレームと47mmレンズ,ヘリコイドを固定してある。
120/220切替は圧版を表裏差し替え、カウンターをダイヤルで切り替える。
レンズはシュナイダー スーパーアンギュロンMC47mmf5.6 固定。
センターフィルターはプロシフト専用で、アタッチメントサイズ52mm。(市販の単体47/5.6は49mmなので、シュナイダーの汎用品は取り付けられない)
スライドは構えて左方向13mm、上方向15mmのそれぞれ1方向で、逆方向には軍艦部上面の三脚穴を使ってカメラを上下逆に取り付けることで対応する。
ファインダーはプラスチック製ライツ21mm用に似た光学ファインダーと、メインフレームに格納された前ワイヤーアングル、シューに畳まれた覗き穴を立ち上げて使うフレームファインダーの2通りが用意され、どちらもシフトに応じて方向を変え、多少の誤差はあるが覗いたままが写る。特にフレームは便利。光学ファインダーはシフトしたときの誤差をアルバダフレーム表示してあり、フレームより正確だが、曇りやすい。
バック固定なので、焦点版で確認することはできない。焦点は距離目測しヘリコイドに表示された距離指標を合わせる。
おそらく最も手持ち撮影で機能的な超広角シフトカメラ。バック交換、焦点板をばっさり捨てた分軽量であり、またマミヤプレスホルダー3型を流用したためグリップを別に付ける必要がありません。マミヤ3型はレリーズに二重露出防止機構が組み込まれていますが、私見では困ることが多々あり結局シャッターを直接操作を余儀なくされます。その点プロシフトは二重露出防止機構を外してあり自由にレリーズできるため却って使いやすく思います。
カメラ毎日のテストレポートでは、スライド後の固定には正面から見て右上のレバー一本のみ使われており、フレームのひずみが避けられず、開放絞り近くでは片ボケすると書かれています。実写では片ボケはあまり意識に登りませんでしたが、実用上絞り込んで被写界深度表を使って撮影していました。絞ればひずみは問題無いと考えられます。また絞り込みで超広角につきものの周辺光量低下が目立たなくなります。
開放でもセンターフィルターを使えば周辺光量低下が押さえられるのですが、中心部の露出倍数が3倍、1.5絞り低下しますから、開放f5.6がf9になり、しかも開放ではまだ完全ではなく、光量を均一化するためf11に絞るなら、実質f18でしかも被写界深度は十分ではありません。私はセンターフィルターは使わずf16-22に絞って使いました。目測の危うさがカバーされ、失敗がなくなります。
撮影結果はおそろしいほど高画質、繊細で全紙伸ばしでも粒子が見えないぬるっとした質感、重量を忘れさせる性能です。f22で回折による画質低下があるはずですが、6x9からの拡大率の低さがそれを目立たなくさせてくれました。


エンサインカーバイン オートレンジの所でご解説になっておられたので、きっと追加して頂けると期待していました。
古典的ロールフィルムカメラでの問題点は、ご指摘の通りレンズの広角化が未だされていない所でしょう。
既にDagorなどの優秀な広角レンズはあったものの、主流のTessarと較べて明るさに劣り、当時でもDagorつきは少数派だったと思います。
69はどうしてもサイズが大きくなるので、気楽な携帯は、頭がおかしい私でも躊躇する所です。
645から66で、小型軽量なシフトカメラは夢ですね。
戦後に目をうつしても、645,66の標準レンズつき蛇腹カメラは星の数ほどありますが、シフトを考えなくても広角がついたカメラは十指に満たないでしょう。
エンボイワイド、SWC系、GS645W、645S、GA645W、GA645Z,BronicaRF645, NewMamiya6..GF670Wも入るかな。
ただし645と考えると、変にシフト機能で重量化するより、軽量66-69をトリミングしてしまう手もあります。
しかしそれには、周辺まで余程高解像力のレンズでないと耐えられない。
昔ベリワイドII、47/8を縦位置撮影し、上半分をトリミングしてシフトのかわりにした時、f16〜22に絞ったにも関わらず周辺画質が不満足だった経験をしました。
ハッセルブラッドSW系トリミングでは、あまり大きな効果は得られませんがスーパーアンギュロン47/8よりはだいぶ画質が改善しました。
ただし一回り大きなサイズからのトリミングは、広画角は期待できない。
ブロニカのRF645や、マミヤ6が出た時、超広角の交換レンズが出ないかと待ちわびました。結局でなかったのが残念無念です。
RF645で30-33mmが出ていれば、気軽にトリミングによる疑似シフトが出来たのになあと。
それとフォトキナのアンダーテーブルに、フジTX-1のレンズを共用するフォーカル645があったそうです。何故出さなかったのか返す返すも残念です。
その末裔がGFXなのかな、と横目で見ています。
余談ですが、35mm用シフトレンズ、α7Rでステッチすると、36x54mm、約7千万画素の画像になります。古い設計のレンズでは絞っても周辺画質は不十分ですが、なんちゃってGFXとして楽しんでいます。


このカメラは手作りに近い量産品で、1995年から97年にかけてロンドンに存在したJack Tait Cameras LTDで製作された。http://somakray.blogspot.com/2011/02/superwide-6x9-by-jack-tait.html
特徴が多いシフト広角カメラで、ホルダーなしで2kgと重く、手持ちを考えていない構造なので三脚固定が前提だが、シフト撮影の便利さは最高クラスであろう。


1,内蔵光学ファインダーはシフト移動に対応したフレームが得られる。
2,ファインダーは縦横切り替え。
3,ボディのスライドは縦方向±17mm、固定ノブ、クリックあり。
4,レボルビング可能。
5,グラフロックバック交換式。ホースマンロールホルダーも使える。
6,ピントグラス装着可(シルベストリが付属していた)ベローズルーペ装着可。
7,スライドは上下が基本だが左右移動はカメラを横倒しで対応可能。
8,標準47mmf5.6の他に専用レンズボードでレンズ交換可能。65mmf8が付属していた。
画像は最大ライズした状態


非常にしっかりした造作で、プロシフトがレバー1箇所でスライド固定するため開放では片ボケすると指摘されたのに反して、各部の剛性感は信頼できる。
レボルビングバック。ロックはなくグリーシーなフリクションで止まる。45度位置にしたのはわかりやすくするため。


残念ながらTait氏はカメラ製造から手を引き、特殊なアナログドローイング機械製作に移行しているらしく、新品で入手するのは難しそうだが、機会があれば触ってみて欲しい。(最近個人のページも閉じられてしまった)
交換レンズ,スーパーアンギュロン65mmf8.ヘリコイド距離指標は点だけなので自分で目盛るかピントグラス確認を要する。


その後も広角で手持ちができる中判カメラへの思いは続いており、コダック オートグラフィックスペシャルにダゴール100mmを載せました。残念ながら(焦点距離が違うので)距離計は使えませんが、広角で暗いレンズのため目測で使える感じで、画角も広く良いです。しかし1ロール5コマしか撮れないのが持ち出しにくいです。
上記カメラは6x14cmぐらいの非常に細長い写真が撮れるので、ビルのような建築物用なら、いっそ片側をマスクしてコマ数を増やしつつ、シフト効果も得ることはできるのですが、そこまで用途が固まっているわけではないのでやっていません。シフトができる初期の蛇腹カメラに乗せるほうが便利かもしれません。その点、もともとダゴールの付いているロールテナックスというものも(高いですが)ありますが、なんとせっかく画角の広いダゴールなのに、前板が簡略でシフトできないのが、「なんでやねん」という感じです。
ヴェストポケットテナックスの75mmを6x9カメラにつけるのもいいかもしれません。僕はたためるカメラが好きなんですが、広角レンズはダゴール等の一部を除いてテッサー型等より寸法が大きいので、こういう「畳める」「広角」「中判」「シフト」となると素材が限られそうです。


既製品のシフト/広角カメラはいずれも重量級で、日浦様が構築されたクラシックフォールディングカメラへの広角装着は、憧れを持って拝見しています。
交換レンズが使えて、比較的軽量な機種はベルクハイルがあげられますが、フィルムホルダーが必要です。
主流の6.5x9より大きなフォーマットは不人気ですが、パノラマサイズにするならいい選択かもしれません。
またアオリはできませんが616フィルム機のジャンクをフィルムホルダーとできないかなど。
手元に豆粒のようなダゴール75mm単体があり、どうしようか楽しく迷っています。

