Ai-S 50mm F1.8 国内版とUS版の相違点


右:US版,左:国内版.奥:AF

Ai-S 全盛の時代には,50mm 標準レンズとして,F1.2, F1.4 および F1.8 の
3種類の異なる明るさを持つレンズがラインアップされていました.
しかし,現在では,F1.8 の販売は終了し,F1.2 および F1.4 のみが
継続して販売されています.
そのため,国内での 50mm F1.8 の価格はやや高めと言えます.
(Ai-P 45mm F2.8 発表以降,若干落ち着いているという説もあります)

しかし,海外の一部では,F1.8 のレンズも継続して販売されています.
そこで,一部の販売店は,海外からこのレンズを輸入して販売しています.
しかしこれは,国内で以前発売されていた 50mm F1.8 とは異なるレンズです.
ここでは,その相違点を明らかにしていきたいと思います.

ここでは海外で現在販売されているものを,仮にUS版と呼ぶことにします.

以下,写真は全て,左が国内版,右がUS版です.


まず,仕様の上でもはっきり現れる差があります.それは最短撮影距離です.
国内版は,F1.4 のレンズと同一の 0.45m まで寄ることが出来ます.
しかし,US版は,0.6m までしか寄ることが出来ません.
撮影倍率では,3割ほど異なる感覚です.
また,接写リング PK-11A を用いた時の撮影可能倍率の繋がりという面でも
最短撮影距離が短いのは有利です.

上の写真では,無限遠時の鏡筒長が同一でありながら,最短撮影距離では
全長が異なることを表しています.国内版では,薄型のレンズでありながら,
十分な最短撮影距離を得ていることが分かります.

フォーカスリングの回転角については,US版のほうがゆったりとした間隔に
なっています.国内版は少し狭くなっており,これは Ai-S 50mm F1.4 とほぼ同じです.

つぎに大きな相違点はコーティングです.基本的に,New Nikkor 以降の
ニッコールレンズは,全てについてマルチコーティングが使用されています.
しかしこれは,全面がマルチコーティングであるという意味ではありません.
一般に,高価なレンズほど,また枚数の多いレンズほど
マルチコーティングの割合が高いと言えます.

さて上の写真で分かるように,国内版とUS版では,コーティング色が異なります.
US版は,ほとんどの面がシングルコートで,一部の面のみがマルチコートになっています.
対照的に,国内版はほとんどの面がマルチコートで,僅かにシングルコートが混じるだけに
なっています.ちなみに,AFレンズも,安価なレンズであるからか,シングルコートが
ほとんどであり,マルチコート面は少なくUS版並です.
ただし,鏡筒が長いため,レンズ自身がフード効果を持っています.

白紙の上にレンズを並べ,透過色を比較してみました.
僅かですが,US版およびAFでは緑色に着色します,
このようなテスト方法では,透過光が下の白紙で反射し,再度レンズを通過するので,
光はレンズを2度通過することになり,よりレンズの着色がはっきり現れます.
しかし肉眼でもなんとかわかるレベルで,上の写真では分かりづらいと思います.
また若干,透過光量も,ほんの僅か国内版が多いように見えます.

レンズマウント側から見たとき,構造が大きく異なることがわかります.
US版は,後部がガッチリした鋳物で出来ていますが,国内版はプレス部品になっています.
国内版では上方に突起が見えますが,これは繰り出されるレンズ群に絞り値を伝達するための
機構になっています.レンズの繰り出し量が多いため,このように無限遠時にはその突起が
レンズ後部に頭を出します.

内面反射の比較です.国内版とUS版では,使われている材質や仕上げがまったく異なると
いっても良いと思いますが,内部の玉枠そのものの形状はほとんど同じように見えます.
しかし内面反射防止の塗料が異なるのか,レンズ前方に関しては国内版では
鏡筒内面が光りにくくなっています.
但しレンズ後端部はUS版のほうが良いようです.

鏡筒の材質は大きく異なります.国内版では,フォーカスリング・絞りリングは金属製で,
フォーカスリングにはゴムの指がかりが巻かれています.
つまり一般的なほかの Ai-S レンズと同じ材質が使用されています.
US版ではどちらもエンジニアリングプラスティックの一体成型で,
フォーカスリングにはゴムが巻かれていません.

シルバーのリング部分も,国内版の金属製に対し,US版はプラ製でメッキです.
どちらも,フィルタ枠は金属製のようです.ただし国内版と海外版ではレンズの
保持の仕方が異なるように見えます.

全体として国内版のほうがコストの掛かる設計・材質になっています.
最短撮影距離を短くするために構造上でも工夫されているのでしょう.

ちなみに,海外では,50mm F1.8 レンズとして,過去にシリーズEレンズがありました.
US版の全体的なデザインや構造は,基本的に,このシリーズEから
派生したと考えています.似通った部分が多く見られるからです.

実写テスト

逆光性能を比較するため,実写テストを行いました.
太陽は,画角内,右上に入っています.
下の写真は,左から順に,国内版,US版,AFです.

テスト環境

カメラ:ニコンF4
フィルム:Kodak E100S
スキャナ:CanoScan D2400UF, 48bit, 300dpi, 3コマ同時取り込み

顕著な差があることが分かると思います.
左下のゴーストの量も異なりますが,画面全体のコントラスト低下の度合いも顕著です.
露出レベルが,AF や US では多いように見えますが,そのようなことはありません.
その証拠というわけではありませんが,フレアの影響をほとんど受けていないと見られる,
中央部の家の部分拡大(画素値は上の写真と同じ)を下に挙げます.

フード

Ai-S 50mm F1.8 指定のフード,HR-4 です(未開封).



Nikomat-ML 管理者
日浦 慎作 Shinsaku HIURA

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