小さな機械式計算機 クルタ計算機

クルタ計算機には2種類のモデルがあり,1947年から発売された Type 1 に加え,1954年にはより多くの桁数が計算できる Type 2 が追加された.このページで紹介しているのは Type 2 であるが,桁数と大きさが異なるだけで使い方は同じである.Type 1 と Type 2 を合わせて14万台程度が1970年ごろまで製造されたと言われている.

Type 1 は全体が黒色塗装仕上げであるが,Type 2 はある時期からオリーブ色の縮緬塗装が一部に施され,上下のローレット部分に磨きが加えられた写真のようなデザインとなった.Type 1 よりも若干太くなっているが依然として非常に小さく,重量も約370gと非常に軽い(タイガー計算器など多くの機械式計算機は5kg程度のものが多い).

クルタ計算機は側面に加減算する値をセットするノブが並び,演算結果と演算回数は上部に現れる.黒色部分が結果部で,シルバーの部分が演算回数の表示部である.ノブは時計回りにしか回すことが出来ず,減算時はノブを少し上に引き上げて操作する.丸い指がかりがついたパーツは演算結果と演算回数の値を0にクリアするためのノブで,どちら回りに回しても良いし,演算結果と演算回数のどちらか一方だけをクリアすることも可能である.上下に配置された銀色の小さな部品は位取りを記録するための目印で,演算動作そのものには影響しない.背面には演算回数カウンターのモードを切り替えるノブがある.

"CURTA" と書いてある部分より上の黒色部分(キャリッジと呼ぶこととする)は少し上へ持ち上げることができ,桁をずらす操作とリセット動作のときに持ち上げる.リセットノブはキャリッジを持ち上げた状態でなければ回転せず,また途中の位置で止めているとキャリッジが下がらないなど安全機能も盛り込まれている.それぞれの操作部は非常に節度感に富んでおり,工作精度の高さを感じさせる.

クルタ計算機には専用のケースが付属している.クランクの保護や水分・砂塵の侵入を防ぐために重要な要素である.蓋はクランクの回転方向とは逆に閉めるようになっており,つまり逆ネジになっている.蓋とケース部分の間にはOリングが入っており,密閉性が高いケースである.

Type 2 では,値をセットするノブが11箇所,演算回数カウンターが8桁で,結果表示部が15桁用意されており,8桁の数値演算が過不足なく行える.Type 1 はそれぞれ 8, 6, 11 桁となっており,概ね6桁までの演算を行うことができる.

クルタ計算機の本体やケースの底には「リヒテンシュタイン製」であると書かれている.リヒテンシュタインは現在でも人口が4万人に満たず,面積も小豆島程度の極めて小さな国である.歴史的経緯は別項に譲るが,クルタ計算機の製造は国策でもあった.

クルタ計算機の操作

クルタ計算機のノブは常に時計回りである.タイガー計算器では引き算のときはクランクを逆回転させるが,クルタではノブを引き上げて回すと引き算が出来る.キャリッジを持ち上げて値をリセットすることが出来る.

掛け算の例として,12345679 ・ 9x の積が 111111111, 222222222, ・・・, 999999999 のようになる例を示す.最初は12345679 を9回加算している.次に,1の位から1を引き,10の位に1を加算して 12345679 の 18倍を求めている.さらに 36倍 (444444444),81倍 (999999999) も示し,最後に結果とカウンターをクリアしている.

クルタでは引き算を行う際には「補数」を用いている.9の補数とは,9999・・・9999 と続く数から元の数を引いた値で,これの最下位桁に1を足すと10の補数になる.ある値を実際に各桁から引く代わりに,その値の10の補数を加算し,あふれた桁を捨てることで引き算ができる.9の補数はそれぞれの桁で 0⇔9, 1⇔8, 2⇔7, 3⇔6, 4⇔5 のように単純な置き換えだけで得られ,クルタ計算機ではノブを引き上げることで,それぞれのポジションに噛み合うギアの歯数が切り替わるようになっている.

例:500 - 234
234 の 9の補数:765
234 の10の補数:766( = 765 + 1)
500 + 766 = 1266
あふれた千の位の 1 を捨てた 266 は,500 - 234 の答えとなっている.

この方法では繰り下がりを考える必要がなく,加算メカで減算を行うことが出来るというメリットがある.現在のコンピュータでも(2進数が用いられているため,「2の補数」であるが)同じ原理が負の数の表現や減算に使用されており,その意味でクルタと電子計算機には共通点があると言える.

引き算をしたときには,0 をセットした桁でも加算操作が多く行われることになるため賑やかな動作音となる.

クルタの背面にはカウンターの動作モード切り替えノブがある.通常は加算時にカウンターを1進め,減算時に1戻すが,割り算のときは「引き算の回数」を数える必要があるため,逆に減算時にカウンターを1進め,加算時には1戻すようにカウンターの動作を入れ替える.タイガー計算器など他の多くの機械式計算機にも備わっている機能である.

割り算の例を示す.1 を 7 で割ると 0.142857142857 ・・と循環するが,ここではこの小数点以下の値を8桁 (0.14285714) 求めている.まず最上位桁に1をセットし,カウンターをリセットする.次に7を引けるだけ減算していくと,その結果がカウンターに現れる.割り算の筆算の手順とほぼ同じである.