シュテックラー式2浴現像法について

1。はじめに

モノクロフィルムの現像には、ミクロファインや T-MAX Developer のような市販の現像液を使っておられる方が多いと思います。私も以前はそうしていましたが、最近はすっかり「シュテックラー式2浴現像法(以下、シ式と呼ぶ)」がメインになっています。その理由は、仕上がりが良い(好みに合う)ことももちろんありますが、もう1つは「かなり手抜きが出来ること」です。2浴式だから、余計に面倒だろう・・と思う方が多いと思いますが、実際にはそうではないと思います。そこでこのページでは、シ式現像法について解説したいと思います。

2。特徴

  • 現像に、2種類の現像液を順に用いる。
    通常のモノクロフィルム現像では、
       現像 → 停止(水注入) → 定着 → 水洗
    という手順で作業しますが、シ式では
       第1現像 → 第2現像 → 停止(水注入) → 定着 → 水洗
    という風になります。しかし後述するように、実際の手間はさほど増加しません。

  • フィルムの銘柄や感度によらず、現像時間が一定でよい。
    現像のための薬品を購入すると、そのパッケージには様々なフィルムに対する現像時間が記されています。そのため異なる銘柄のフィルムを現像する場合、それらは別々に現像せねばなりません。しかしシ式ではどのフィルムでも一定の現像時間で良いとされているので※、様々な銘柄のフィルムを混ぜて現像することが出来ます。私の場合、大きめの現像タンクで ISO100 と ISO400 のフィルムを混ぜて現像したりしています。
    ※過去の文献にはそのように記載されていますが、実際にはフィルムによって最適な現像時間は変わり得ます。一定の現像条件でうまく現像できるよう決められたカラーネガフィルム現像(C41)とは異なり、モノクロネガフィルムにはそもそも多様性がありますので、実際にはそれぞれのフィルム銘柄や、仕上がりの好みに合わせて現像時間を調整することが望ましいです。

  • ハイライト部分の再現性が良い。
    現像進行の原理により、ハイライト部分の現像はシャドウ部分や中間調の部分に比べて現像能力が低くなります。そのためハイライトが圧縮され、飛びにくくなります。またこれと同じ原理により、ハイライト部分での粒状性・解像度が向上します (一般に現像が深いほど粒子が大きくなるために粒状性や解像度が低下します)。やや軟調になると考えられがちですが、シャドウから中間調にかけてはしっかり現像されるため、むしろシャドウから中間調までのコントラストは十分であり、焼きやすいネガが得られます。

  • 露出の過不足に関して許容度が高い。
    上の項目と関係しますが、ハイライトが飛びにくいため、特に過度の露出に対して寛容です。一般に暗部ほどコントラストが高くなるため、露出アンダーのフィルムでも軟調になりすぎず焼きやすくなります。露出が多い方が硬調、露出を切りつめれば軟調、という効果が小さく現れると考えても良いでしょう。

  • 現像液が長持ちで管理が楽。
    通常の現像液は溶解後や使用後の使用限度が決められており、また使用するごとに現像時間を延長せねばなりませんが、シ式では疲労が大変少なく、現像時間の延長は不要であるとされています※。また第1現像液(現像主剤)と第2現像液(現像促進剤)が分かれているために、液の保存性もきわめて良好とのことです。
    ※過去の文献にはそのように記載されていますが、実際には必ず現像液は疲労していきます。経験的にはかなり疲労が少なく、多くの本数が現像できることや、長期間保存しても現像力の低下が少ないことを確認していますが、現実には、本数をある程度経た現像液では現像時間を伸ばしていくほうが望ましいです。現像の仕上がりを見ながら次回を調整するような方法が可能です。

3。現像液の処方と現像方法

  • 現像方法
    • 現像液A、Bを24度程度にする。
    • A液を注入し、通常通り攪拌、4分で排出。A液注入前に前浴はしてはならない(*1)
    • B液を注入し、弱めに攪拌、4分で排出。B液注入前に水洗してはならない
    • 続く停止処理以降は通常の現像と同様。

  • 処方

    シュテックラー氏オリジナルの処方
    第1現像液(A液)1000cc第2現像液(B液) 1000cc
    メトール・・・・・・・・5g
    無水亜硫酸ナトリウム・・100g
    硼砂・・・・・・・・・・10g
    両者とも、45度程度の温水 750cc を用意し、それに完全に溶解した後
    水を加えて 1000cc にする。

    中川氏改良処方
    第1現像液(A液)1000cc第2現像液(B液) 1000cc
    メトール・・・・・・・・5g
    無水亜硫酸ナトリウム・・50g
    硼砂・・・・・・・・・・10g
    両者とも、45度程度の温水 750cc を用意し、それに完全に溶解した後
    水を加えて 1000cc にする。

    メトールの変わりに、富士フイルムのモノールでも同じです。
    亜硫酸ナトリウムは金属銀(いわゆる粒子)を溶解して微粒子化する性質があるそうで、同時に先鋭度をやや低下させるそうです。そのため先鋭度を重視するなら中川氏改良処方、滑らかで粒状感のない現像結果を得たいならオリジナルが良いのではないでしょうか。私は主に中川氏改良処方で現像しています。

4。その他の勘所

  • 前浴(現像前に水洗すること)(*1)、およびA液とB液の間の水洗は絶対にしてはならない。
    A液がフィルムの乳剤に浸透し、それがB液により活性化されることで現像が進行するので(A液だけでも現像は進行するが)、フィルム乳剤に浸透するA液の濃度が低下する前浴、およびA液を流してしまう水洗はしてはいけません。逆に言うと、A液による現像の進行はゆっくりであるため、現像ムラや気泡の除去に効果のある前浴はそもそも必要ないとも言えます。私は、通常の現像液を使うときには前浴をしていましたので、その意味では(液の出し入れ回数の意味では)あまり手間の差はありません。

    (*1)  前浴を行うかわりに現像時間を若干延長すると問題ないようです。

  • 液温は低下しすぎないように。
    参考文献によると、液温は20度から30度の範囲であれば良いようですが、温度が低いほどやはり軟調で薄いネガになってしまうため、冬場は液温が20度を切らないように気をつけたい。

5。なぜシュテックラー式がこんな特徴を持つのか

 様々な解説や実験結果が以下の参考文献に挙げられていますので、詳しくはそちらを参照していただけばと思いますが、簡単には以下の通りです。
 まず、A液を注入します。これには現像主剤(メトール)と、主剤の能力低下を防ぐ保恒剤(亜硫酸ナトリウム)が入っています。主剤と、亜硫酸ナトリウムによるアルカリ性により現像が起こりますが、現像促進剤(硼砂)が入っていませんので、その進み方はゆっくりです(まったく進行せず、B剤が入って初めて現像されるとする文献もありますが、そうではないようです。その証拠に、D-23 という1浴の処方はA液に非常に近い内容です)。ここでは、ハイライトからシャドウまでが同じように現像されるものと思われます。
 次にA液を排出し、B液を注入すると、フィルムの乳剤に残ったA液がB液により活性化されて現像が進みます。しかしA液の量には限りがありますので、先にハイライト部分で主剤が使い果たされてしまい現像が停止します。しかしシャドウ部分は反応するハロゲン化銀が少ないため、現像主剤は使い果たされることなく、より長時間進行します。そのためシャドウ部分ほどコントラストが高く、ハイライト部分が軟調な現像が行われます。
 ハイライト部分の現像は弱い現像液で弱く行われることから飛びにくいだけでなく、粒子が細かくなるため解像度にも優れます。また一般に高感度フィルムは乳剤層が厚く、そのために現像時間を長くする必要があるのですが、シ式ではA剤がその分多く含まれますので、高感度フィルムであるからといって現像時間を延長する必要はないとされています。

6。参考文献